アンケートには厳しい言葉も。でもこれが民主主義
上映終了後、自然発生的に拍手が沸いた。私自身は映画鑑賞終了後、拍手をしたことがない。なのに、本作では拍手が多いと聞く。舞台袖で聞く拍手は格別で、涙がでそうになる。舞台挨拶では「安倍さんが亡くなる前から始動していた本作がいかなる苦難の果てに上映に漕ぎ着けたか」が決まりの話。
この時、お客様は私を注視してくれているが、実はこちらが、お客様の「本作への関心度」を掴むのに最高の瞬間だ。もっと聞きたい、もっと知りたい…という視線や表情が突きつけられる。東京・吉祥寺での上映会もすごかったが、この夜の回は、それを超える最高の熱量だった。「待ってました」とばかりに、好奇心と嬉しさにあふれた表情、そして時に深いうなずきをまじえて聞いてくれる。監督冥利に尽きる瞬間だ…とつくづく思う。
翌日の上映も大盛況だった。年齢層は大半が50~60代から上の先輩たち。20~30代の主婦グループや若い姉妹、サラリーマンではなさそうな男性も少なくない。ただ大学生は殆ど見かけなかった。
舞台挨拶後に、お客様を出口で見送っていると、握手と共に「面白かった」「よかった」と興奮を伝えてくれる方や「危険はなかったのかい?」と心配してくれる方が大勢いた。
「こんな映画で安倍さんのことをきっちり明かして欲しかった。多くの人に伝えて欲しい」「早く次回作を作ってください」とアンケートにもしっかり興奮を伝えてくれている。
一方で、舞台挨拶の前にそそくさと消える方、憮然とした態度で舞台挨拶する私を蔑視する方、あえてなのか深いため息を私に聞かせる方…も当然いた。厳しい言葉が並んだアンケートもあったが、これぞ本来あるべきカタチだ。違う意見をぶつけあって落とし所を探る…これぞ民主主義。だが、本来は“分断の反対側”にあるべきこうしたものに綻びが見え、様々な間違いが蔓延っているのがこの10年の日本ではないだろうか。
結局、『妖怪の孫』の上映会は主催者チームの予測合計500人を遥かに超える大盛況ぶりだった。だが、人数以上に「映画を見て胸のすく思いがした」「心に重くのし掛かっていた蓋がとれた」」といった様子が、お客様の観覧後の言葉から見て取れた。
映画は娯楽でしかない。それでも人の心を動かすモノなら、娯楽を超えた力になるかもしれない。