悲劇の始まり
松永によって続けられた苛烈な詰問が緒方にもたらした外傷について、判決文は詳述している。
〈このときの通電が原因で、緒方の右足の小指と薬指は癒着し、親指の肉は欠損した。松永は、電気コードのビニールを剝いで針金を出し、それを足のふくら脛はぎに巻いた状態で通電した。その火傷の痕は約1年間消えなかった〉
緒方から湯布院町に滞在中の行動を聞き出した松永は、緒方とその地でできた人間関係を分断させるため、彼女を家に泊めて仕事を一緒に探してくれたMさんや、働いたスナック「ツバキ」などに電話をかけさせた。
検察側の冒頭陳述には次のようにある。
〈同女(緒方)を止宿させた女性の氏名や、ホステスとして働いたスナックの名称等を白状させた上、被告人緒方に指示して、上記女性に対し、電話で「あんたの娘は教育がなっていない。」などと因縁を付けさせたり、
上記スナックに電話で「時給が安すぎる。馬鹿にしている。騙された。」などと因縁を付けさせるなどの嫌がらせ電話を掛けさせて、被告人緒方が二度と上記女性らを頼って湯布院に戻ることができないように画策した〉
なお、私が直接取材をした「ツバキ」のママであるCさんの記憶によれば、後日店にかかってきた電話は、冒頭陳述にある緒方からのものではなく、松永本人によるものだったということを追記しておく。
とまれ、この「湯布院事件」によって緒方家の弱みを握った松永は、これまで以上に緒方の親族を服従させ、徹底的に搾取しようと動き始めることになる。
文/小野一光 写真/©shutterstock
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