これが最後と肝に銘じて

還暦を超えても、なおも続く挑戦。最も若い石尾と30歳近くもある年齢差。並の精神力では、この決戦の場まで辿り着くことなどできるはずもない。

今回こそが“苦悩の集大成”と述べる竹内は、「栄光のナンバー30に恥じぬよう、蜘蛛の糸が途切れるまで耐え凌いで、納得のいく卒業という形を取りたい」と意気込みを述べていた。家の近所の170段の階段を毎日往復するトレーニングを重ね、体を鍛えた。

「数えてたけど、わからなくなっちゃった。これが終わると一日が終わる、そんなイメージなんだ。これで今晩もホッとして寝れるよ」

新婚旅行を10年延期し、妻を待たせ続けた62歳最後の挑戦。全長415kmの「日本一過酷な山岳レース」に出場するために交わした妻との誓約書の5つの約束とは…。_2
スタート時の竹内選手(写真左)

大会前のロケで、階段を駆け上がったあと、必死に「ハァハァ」と大きく息を吐き出しながら語った竹内の表情は、この上なく充実しているように見えた。与太話だが、編集マン・山﨑の指摘によると、撮影素材を見返すと竹内は何度走っても、必ずカメラ向きに大きく口を開けてから、辛そうな表情をして見せていたという。サービス精神の発露か。竹内の気配りと余裕を感じさせるエピソードだ。

竹内には、40代後半で結婚した妻の典子がいる。

「10年間も同じ夢を追い続けられるのは、ある意味幸せなことじゃないかなと思います。その半面、一人で山にどんどん行ってしまうので、帰ってくるまで心配は尽きないです」

そう語る典子に、竹内は今大会の出場前に“誓約書”を提出した。

一、大自然の中で自然に対しての畏敬の念を持ち無理しないこと。
一、これが最後と肝に銘じて、十年間を振り返り一歩一歩かみしめて進むこと。(蜘蛛の糸が切れた時が卒業)
一、山屋の端くれとして、おごりたかぶることなく応援する方々に感謝の気持ちで接すること。
一、ゴールは大浜海岸でなく自宅がゴール。何が何でも無事帰ります。
一、最低一年に一度典子と一緒に登山。卒業旅行、新婚旅行 2025 3月まで

№30 岳蔵。 2022 7 /11

A3 サイズの紙に、油性マジックで丁寧に書きつけられている。