サンドイッチは飲み物!?
車椅子を頼りにして、もはや自力では歩けないチャーリー。献身的に彼の世話をする看護婦のリズ。反抗心丸出しだがどこか憎めない娘のエリー。
主要な3人の演技のアンサンブルがものすごくいい。チャーリーは醜い自分の姿を恥じているので、娘にその容姿やだらしなさを攻撃されると、実に情けなくも憐れみを誘うような表情をする。
ぽっちゃり顔でつぶらな瞳が、悲しげな子どものようだ。そして、リズに対して母親に甘えるように冗談をいってふざけるときには、子どもっぽいあどけなさが全開になる。
海の波打ち際に立つ自分を想うとき、または死を覚悟して贖罪の気持ちを吐露するとき、あまりにも繊細な彼の心持ちと、見た目のギャップがかえって観るものの心に突き刺さる。アロノフスキー、ずるいぞこの演出。
リズを演じて最近、活躍目覚ましいホン・チャウがまたうまい! チャーリーの体を心から心配しているが、飴と鞭を使いこなすように彼に食べ物を与える。
そう、与えるって感じで体に悪いのは分かっているが与えるのだ。いや〜、私驚きました。チャーリー、いや、ブレイダン・フレイザーの食べものの食いつきぶりがスゴイのよ。
でっかいサンドイッチを喉に流し込むの! そう、彼にとってサンドイッチは飲み物です! リズがどっさり買ってきた食べものが一瞬にして平らげられる。
私にとって、この映画の1番のインパクトシーンでした。それから、これだけ肥満していると、ベッドに横たわるのも、あちこちの仕掛けを頼りに一苦労。いやはや、なんとも、かつての小錦とかも大変だったんだね〜。
娘役のセイディ・シンク、Netflixの人気シリーズ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』(2016~)のマックス役でお馴染みだが、いや〜かわいいの何の。怒れるティーンエイジャーをリアルに表現して、若いエネルギーに満ちている。
これからの活躍が期待できる新星でした。
イラスト・文/石川三千花
『ザ・ホエール』(2022) The Whale 上映時間:1時間57分 アメリカ
配給:キノフィルムズ
監督/ダーレン・アロノフスキー
出演/ブレイダン・フレイザー セイディ・シンク ホン・チャウ サマンサ・モートン 他
https://whale-movie.jp/
『ブラック・スワン』のダーレン・アロノフスキー監督が、『ハムナプトラ』シリーズのブレンダン・フレイザーを主演に迎えた人間ドラマ。劇作家サム・D・ハンターによる舞台劇を原作に、死期の迫った肥満症の男が娘との絆を取り戻そうとする姿を描く。