“若い”“女性”に語ってもらう必要があった

「“こんなひどい世界、終わっちゃえ”と何度も思った」紀里谷和明監督が“遺作”に込めた、社会に対する深い絶望_2
ハナ(中央)が夢の中で出会う少女ユキ(右)
🄫Kiriya Pictures

──ハナを女性にしたのはどうしてでしょう?

ハナだけでなく、劇中にはユキというキャラクターも登場します。彼女は両親を殺された戦国時代に生きる少女です。歴史上、争いごとを始めるのはいつも男。古今東西ずっとそれなんです。今のウクライナ問題だって、男のつまらないエゴやプライドで始まっているでしょう。

そして戦争の被害者の最たるものは女性であり、子供なんです。彼らは争いを始めていないのに、一番苦しめられています。だからこそ、終末に向かうこの絶望の物語は、若い人であり、女性に語ってもらうしかなかったんです。

──男性である監督が、その視点を持たれたのはなぜですか?

子供の頃から、学校や社会システムに対してものすごい不条理を覚えていたし、怒りを抱いていました。だから僕は15歳でアメリカに行ったんです。

大学生のときに、CNNでソコボ紛争の映像を見て衝撃を受けたことがありました。娘と妻を目の前で強姦され、殺された男性が、泣きながらインタビューに答えていました。家族を襲った兵士は、ヘラヘラ笑いながら帰っていったそう。

そんな残酷なことはナチスドイツのときに終わっていると思っていました。つまり白黒の映像で見る遠い過去のことだと思っていたのに、「まだ終わってないの?」って。今だってウクライナで同じようなことが起きている。人間は生きる価値がないと、本当に思ってしまいますよね。

子供の頃は絶望をしながらも、いつか争いごとは終わる、いつか世界は平和になると思っていた。つまり希望がありました。ところが今も基本構造は何も変わっていないどころか、もっとひどくなっている。もう、社会に対して絶望しかないし、関わらないように生きていきたいと思ってしまいます。