エリートチェンソー使いを目指し屈強な男が集う
“チェーンソー講習”マーヴェリック

講習会初日。
講義部屋に並べられた机の所定の位置に座っていると、まずは年配の男性が出てきて、我々に向かってこんな趣旨のことを言った。
「君たちは、エリートのチェンソー使いになるべくここに集った。この講習会を無事に修了すれば、山で仕事をするものが必ず持っていなければならないライセンスを発行する。だが、その道は厳しいから覚悟しておけ。講師を紹介しよう。すべての山を知り尽くし、伐倒した樹木は万を超える、我が国最高のチェンソーマン、コールネームは“マーヴェリック”だ」

受講生の背後からドカドカという安全靴の音を響かせて“マーヴェリック”と呼ばれる講師が現れ、目の前の教壇に立った。
僕は彼の顔を見た瞬間、思わず机に突っ伏してしまった。
昨夜、酒場で我々受講生と一悶着を起こしたその男だったからだ。
そういえばあいつ確かに、林業の会社を経営していると言ってたっけ。

マーヴェリックはもちろん我々のことに気づいているだろうが、眉根ひとつ動かさず、『チェーンソー作業の安全ナビ』というタイトルの教本を手に掲げ、静かにこう言った。
「テキストは全員に行き渡っているな」
すると僕の後ろの席に座っている受講生の山田さん、コールネーム“ヤマチャン”が果敢に発言した。
「もう一字一句、暗記していますよ」

マーヴェリックはフンと鼻で笑い、テキストを教壇脇のゴミ箱にバサっと捨てて言い放った。
「こんなテキストに書かれている内容は、敵である立木も熟知している。これからお前たちが学ぶことはお遊びじゃない。実戦だ!」

僕をはじめとする全受講生が、ハッとさせられる思いだった。

「チェンソーマンに俺はなる!」文化系アラフィフ男が体験した「トップガン」並の体育会系チェンソー講習会の実態_3
チェーンソー講習会のテキスト(本当は捨ててません)

講習会(フィクションを含む)全課程を終了し、
晴れてチェンソーマンになった!

それからの3日間は、辛く厳しいものだった。
作業の準備から始まり、チェンソーの基本操作、伐木作業や造材作業のハウツー、チェンソーの構造の把握、手入れ方法、作業で起こりやすい事故とそれを防ぐ方法、伐木にまつわる関係法令などについて、必死で学んでいった。
中でも3日目の、実際にチェンソーを使った模擬ミッション訓練は、なかなか厳しいものだった。

当初は受講生同士のいざこざや、講師であるマーヴェリックに対してのわだかまりもあったが、休憩時間を利用し、僕を含めた全員が筋骨隆々の上半身をむき出しにしてバレーボールやフットボールをやったあとにはすっかり解消。
チーム一丸となり、チェンソー技能の習得に励んだ。

僕のバディとなったヤマチャンが、実技講習の際、チェンソー作業で起こりうるもっとも危険な現象で、慎重に避けなければならない“キックバック”を実際に体験してしまうというトラウマ的な場面もあった。
だがそうした試練も乗り越え、3日間という長丁場の講習の末、19名の受講生全員がライセンスを取得した。

「チェンソーマンに俺はなる!」文化系アラフィフ男が体験した「トップガン」並の体育会系チェンソー講習会の実態_4
ライセンスこと“労働安全衛生特別教育等修了証”。特に林業従事者には取得義務がある

かくして我々は、晴れてチェンソーマンとなったのである。
マーヴェリックは、立派に巣立っていく我々に向かって、涙をこらえながら最後にこう言った。
「明日からも、ご安全に!」