著書に書かれた「夢」は事実だったのか
私はGさんへの質問項目をまとめて、森下さんにメールで送った。『答えたくない質問にはお答えいただかなくて結構です』と書き添えた。7つの質問をしたが、4つが無回答で返ってきた。仲違いした理由も空欄だった。
ただ、『Q.栗城さんの著書に「先輩は、僕と2人でマッキンリーに登るのが夢だった」と書いてありますが事実でしょうか?』という問いには、「事実ではない」と回答している。
単独でマッキンリーに登ると言い張る栗城さんを、森下さんは「考え直せ」と何度も説得した。しかし、翻意させることはできなかった。
「栗城の技術じゃ無理だ、って誰もが思いますよ。中山峠から小樽まで縦走したぐらいの経験でマッキンリーに登ろうだなんて、普通は思わないんです」
マッキンリーに登頂するにはユマール(登高器)を使わなければならない。固定されたフィックスロープが張られた斜面があり、そのロープにセットするのだ。ユマールはカムの働きで、上には上がるが下には落ちないようになっている。安全を確保しながら登るために必須の道具である。
「あいつに、ユマール持ってるの? 『いえ、持ってません』、じゃあ俺のユマール貸してあげるよ、うちにおいで、使ったことあるの? 『ないです』……それが出発の前日か前々日でした」
文/河野啓 写真/pixta shutterstock