著書に書かれた「夢」は事実だったのか

「彼の技術じゃ無理だ、って誰もが思いますよ」登山器具もまとも扱えなかった栗城史多がマッキンリーを目指した理由_4
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私はGさんへの質問項目をまとめて、森下さんにメールで送った。『答えたくない質問にはお答えいただかなくて結構です』と書き添えた。7つの質問をしたが、4つが無回答で返ってきた。仲違いした理由も空欄だった。

ただ、『Q.栗城さんの著書に「先輩は、僕と2人でマッキンリーに登るのが夢だった」と書いてありますが事実でしょうか?』という問いには、「事実ではない」と回答している。

単独でマッキンリーに登ると言い張る栗城さんを、森下さんは「考え直せ」と何度も説得した。しかし、翻意させることはできなかった。

「栗城の技術じゃ無理だ、って誰もが思いますよ。中山峠から小樽まで縦走したぐらいの経験でマッキンリーに登ろうだなんて、普通は思わないんです」

マッキンリーに登頂するにはユマール(登高器)を使わなければならない。固定されたフィックスロープが張られた斜面があり、そのロープにセットするのだ。ユマールはカムの働きで、上には上がるが下には落ちないようになっている。安全を確保しながら登るために必須の道具である。

「あいつに、ユマール持ってるの? 『いえ、持ってません』、じゃあ俺のユマール貸してあげるよ、うちにおいで、使ったことあるの? 『ないです』……それが出発の前日か前々日でした」

文/河野啓 写真/pixta shutterstock

「ええっ! 登ってしまったか!」登山歴2年の若者・栗城史多がマッキンリーで起こした奇跡 に続く

デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場
著者:河野 啓
「彼の技術じゃ無理だ、って誰もが思いますよ」登山器具もまとも扱えなかった栗城史多がマッキンリーを目指した理由_5
2023年1月20日発売
825円(税込)
文庫判/384ページ
ISBN:978-4-08-744479-7
第18回開高健ノンフィクション賞受賞作
「夢の共有」を掲げて華々しく活動し、毀誉褒貶のなかで滑落死した登山家。
メディアを巻き込んで繰り広げられた彼の「劇場」の真実はどこにあったのか。

両手の指9本を失いながらも〝七大陸最高峰単独無酸素〟登頂を目指した登山家・栗城史多氏。エベレスト登頂をインターネットで生中継することを掲げ注目を集めたが、8度目の挑戦となった2018年5月21日、滑落死。35歳だった。彼はなぜエベレストに挑み続けたのか? そして、彼は何者だったのか? かつて栗城氏を番組に描いた著者が、綿密な取材で謎多き人気クライマーの真実にせまる。
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