「僕なら有力な批評家やコレクターを呼んであげられる」著名キュレーターが若手女性作家をホテルに呼び出し、肉体関係を迫り、暴言を浴びせ…日本の美術界にはびこる「ギャラリーストーカー」の闇_4
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ハラスメントが再生産されていく構造

当たり前のように見過ごされてきた性暴力やハラスメントの背景には、日本の美術業界の特殊な構造がある。

「大学教員や著名な美術家、批評家、キュレーター、審査員は圧倒的に男性が多く、一方の若い美大生は女性が多数を占めることも影響しているだろう」と猪谷さんは本書の冒頭で綴っている。

選ぶ側の男性と、選ばれる側の立場が弱い若い作家。狭い業界の中でもしも被害を訴えれば、権力を持つ選ぶ側によって作家生命や将来をつぶされるのではないかと恐れて泣き寝入りし、実態が明るみに出ずに被害が再生産されていく状況が何十年にも渡って続いている。

駆け出しの作家の場合はフリーランスで活動している人が多く、防波堤になる人が誰もいないことも大きな要因だ。

また、加害者自身がストーカーやハラスメントの意識がなく行動している事実も浮き彫りにされた。

「加害者にも取材を申し込みましたが、受けてもらえなかったです。『お話できることはありません』と返信がきたり、無視されたりしました。

被害者から加害を指摘されると、加害者は自分が被害者のように思う方が多いようです。セクハラをしていても『同意の上の恋愛だった』などと言い出す方がいます。

何がハラスメントで暴力なのかを自分でもわからずに行動してしまっているのだと推測しています。もちろん自分の権力を自覚してハラスメントに及ぶケースもあり、そちらはより悪質です。

本来ならば、選ぶ立場にある人たちが気をつけないといけないことです。しかし、何がハラスメントなのか、何が加害行為なのか、知識もなければ教育も受けてきていないので、わからずにやってしまっているんです」

酷いケースになると、ギャラリー側が有力コレクターに女性作家を差し出すようなこともある。

「食事くらい行ってきて、と言われることもあるようです。被害を軽くみている。

それが作家さんにとってどれだけ嫌なことで傷つくかということに無頓着なんです。それくらい我慢してうまくやって、などと言われてしまう。

深刻化されず、被害が表に出ない要因だと思います」