ここでロシアとウクライナの戦車の保有数を比較してみる。英シンクタンクである国際戦略研究所(IISS)公表の「ミリタリー・バランス」データに、ウクライナ軍が公表したロシア軍戦車の破壊、または鹵獲数を加味すると、実戦に配備されているロシア軍の戦車数は約2600両(全体のストック数・約12000両)ほどだろう。

これに対し、ウクライナ軍の戦車は900両ほどにすぎない。さらにロシア戦術大隊の戦車がドンバス地方に投入されれば、ウクライナ軍は一気に劣勢に立たされるのは確実だ。

チェコとポーランドがウクライナ軍にT-72を供与するという動きに期待する声もあるが、その数はそれぞれ10両、12両ほどにすぎない。NATOに加盟する東欧諸国によるウクライナ軍戦車の修理、メンテナンスも限定的だ。

ウクライナ戦争の第2ステージは戦車同士の平地戦へ。ドニエプル川が「38度線」になる⁉_2
1971年にソビエト連邦で開発されたT-72。軽量で低い車体に高火力な125mm滑腔砲を搭載し、攻撃力、機動力、防御力のバランスに優れているとされる

ロシア軍もウクライナ軍もその主力戦車はT-72で、ウクライナ軍のT-72はロシア軍に先んじて近代化改修を終え、「赤外線画像装置」などを装備しているのだが、戦車の基本性能は同一だ。

そのため、湾岸戦争やイラク戦争のように近代化改修された欧米の戦車がイラク軍の旧式戦車を一方的に駆逐するというような戦いにはならないだろう。

米国務、国防長官がキーウを電撃訪問

ここで同じ重装備である火砲(口径20ミリ以上の砲身で、火薬を使用して弾丸を発射する火器)についても取り上げたい。戦車の射撃レンジが戦車兵の視界に入る2〜3kmに対して、火砲の有効射程は一般的に20〜30kmもある。

しかも、4月24日に米国務、国防長官がそろってキーウを電撃訪問するなど、ウクライナ支援を加速させるアメリカが155mm榴弾(りゅうだん)砲90門と砲弾18万4000発の供与を公表した。ならば、ウクライナ軍はこうした火砲を駆使して、長距離からロシア軍に反撃すればよいのではと、多くの人々は思うかもしれない。

しかし、米軍の榴弾砲が、すぐにでも重装備が必要とされるドンバス地方のウクライナ軍にいつ届くかは不明である。また、スムーズに供与がされたとしても今度は榴弾の口径問題が浮上する。

米軍供与の榴弾砲、さらにはやはりイギリスがウクライナへ渡す予定の引き渡す予定のAS90自走砲(火砲を搭載した自走可能な兵器のこと)20両もともに榴弾の口径は155ミリだ。ところが、ウクライナ軍が保有する火砲の榴弾は旧ソ連製の152ミリ。つまり、口径が異なるので共用は不可能なのだ。

また、新たな兵器を運用するには熟練した砲兵でも最低でも2〜3週間の教育や訓練が必要とされる。その点では、チェコ国防省がウクライナに供与する口径が同じ152mm砲弾約4000発のほうがすぐにでも使え、利用価値が高いかもしれない。

そもそも、直接照準による砲弾と火砲による砲弾の軌道は根本的に異なる。火砲の砲弾は放物線を描いて、陣地や建物などの非装甲物を破壊する。

つまり「面」を制圧するのが目的で、戦車に随行する歩兵たちを排除することは可能だとしても、戦車を直接破壊する目的の兵器ではない。火砲でロシア軍の戦車隊を破壊するのはそう簡単なことではないのだ。