「山小屋」を主題とした理由
––その後、連載を目指して作品づくりに取り組んでいったのでしょうか。
そうですね。でもすぐには上手くいかず、仕事をしながら新しい作品を描く生活をしていました。そのタイミングでラフティングに出会い、そこで出会った人たちをモデルに描いたのが前作『童貞カヤッカーカケル』(竹書房)です。これは、ラフティングガイドの仕事と並行して執筆していました。
––多忙な毎日ですね。
ページ数の少ない連載だったので、なんとかこなせました。同作が2巻で完結したあとは、ラフティングを自分の進む道にしようかな、なんて思っていましたが、コロナ禍でインバウンド需要が激減してリゾートバイトの仕事がなくなってしまったんです。
––そこで、また漫画制作を始めた、と。
はい。仕事がなくなり、昔書いた漫画を整理していたら「面白いのがあるぞ!」って自分の作品ながら思ったんです。そして、これを誰かに見てほしいなという感情も湧いてきました。それが『Lingering Snow』という作品です。
––『Lingering Snow』や『童貞カヤッカーカケル』など、これまで坂盛先生は“プレイヤー”の側面から作品を描かれてきました。一方、『やまさん〜山小屋三姉妹〜』では山小屋をテーマにしたのはなぜでしょうか。
山をテーマに決めたとき、なるべく読者に身近なものを描きたいと思ったんです。
山を登る人って、そもそもかなり限られているじゃないですか。その時点で、身近なものをテーマにするのは難しい。しかも、私自身がもう山での生活を深く知っていたので、これから山に登ろうと思う人の気持ちがイメージしづらいというのもありました。実際に登山客が主人公のネームも作ったのですが、やっぱりしっくりこなくて…。
その点、山小屋目線ならリアルに描けましたし、その生活を描くことで読者にもより身近なものになるだろうと。
––たしかに『やまさん〜山小屋三姉妹〜』で描かれる三姉妹(沢子、稜、華歩)の“生活感”は、山に登らない筆者にもすごく魅力的に映りました。
そう言っていただけると、うれしいです。その3人のキャラクターを作るのには非常に苦労したので。