ゲイが全員、オネエ言葉を使うわけじゃない

宮沢氷魚にベッドシーンの“振り付け”をし、鈴木亮平にゲイの所作を指導…映画『エゴイスト』が日本映画で初めて導入した画期的な仕事とは_3
LGBTQ+インクルーシヴ・ディレクターのミヤタ廉さん。本作ではヘアメイクデザインの「宮田靖士」としてもクレジットされている

──鈴木亮平さんは浩輔を演じるにあたり、「世間の偏見やステレオタイプを助長してしまわないよう」にミヤタさんと相談しながら作り上げたと語っていました。当事者の方が監修される意味は“リアリティ”を追求することだと思っていましたが、一概にそういうことではないんですね?

鈴木亮平インタビューはこちら

ミヤタ廉 “リアル”とひとことで言っても、当たり前ですがゲイだって十人十色なんです。浩輔というキャラクターを見て、「あんなオネエ言葉を使う人ばかりじゃない」と思う人もいると思います。友人たちの前でオネエ言葉を使うのは、ゲイだからというよりもあくまで浩輔というキャラクターを構築した上でのことです。

ゲイであること、浩輔のセクシュアリティは絶対的に重要なアイデンティティですが、浩輔が積み重ねてきた経験を考えたとき、どういう目つきをするのか、どういう所作や言葉遣いをするのか、そういうことを細かく想像していけば、自然とリアリティは出てくると思いました。

──浩輔というキャラクターを作る上で手がかりとなったのは?

ミヤタ廉 原作の浩輔は、話し方など、もう少しドライな印象でした。でも亮平さんは、取材を重ねるうちにもう少し原作者の高山さんに寄せたいということを強くおっしゃっていて。場面に沿って、キャラクターの持つ温度も含めて相談しながら作っていった感じです。

宮沢氷魚にベッドシーンの“振り付け”をし、鈴木亮平にゲイの所作を指導…映画『エゴイスト』が日本映画で初めて導入した画期的な仕事とは_4
© 2023 高山真・小学館/「エゴイスト」製作委員会

──浩輔がゲイの友人と居酒屋で盛り上がるシーンは、ユーモアと毒のあるキャラクターがよく表れています。

ミヤタ廉 あのシーンは亮平さんがキャラクターに馴染むよう監督からの配慮で、結構序盤に撮ったんです。周りの友人役はゲイの当事者ですし、ひとりだけ誰が見ても鈴木亮平だとわかる中で、ちゃんと仲間に見えなきゃいけない。

例えば僕の友達におしぼりを畳んでコースターの代わりにする子がいるんです。画角的にカメラには映らないけど、「几帳面な浩輔が酒場でやってしまう癖のひとつ」として亮平さんに提案したりしました。そういったパーソナルな部分は最終的にイコールで繋がると思いましたので。

ゲイの人が「あるある」と思っても、そうではない人が取り残されるのは違う。「あ、ゲイってやっぱりこういう感じだよね」と思われるのも、亮平さんが求めるものではなかった。キャラクターに愛を持たせないといけなかったし、「浩輔」として嘘がないようにひとつひとつ確認して作り上げました。亮平さんは、すべての部分をプロフェッショナルに突き詰められていましたね。