【秘伝レシピも公開】オタフクソースの「お好み焼士マイスター」に学ぶ、お好み焼きを自分でおいしく焼くためにいちばん重要なこと
「今回のG7サミットはお好み焼きを世界にアピールする大きなチャンスです」と語るのはオタフクソース株式会社「お好み焼課」の春名陽介課長。だが、お好み焼きは「焼く人や材料の配合によって味が変わるため、簡単そうに見えて、非常に難しい」とも。そこで秘伝のレシピとともに、おいしい焼き方を実演を交えて解説してもらった。
おいしく焼くために、最も大切なこと

オタフクソースのお好み焼課で課長を務める春名陽介さん(中央)
「多くの方々が思っているのは、お好み焼きは見様見真似でできるということ。実際に私たちがお好み焼き店の開業支援研修をする際に、『お好み焼きって、私にもできそう』という感じで来られる方もいます。例えば、フランス料理や寿司だったら修業しますよね。でも、お好み焼きは修業せずにいきなり飛び込む人が非常に多い業態です」
オタフクソースのお好み焼課課長で、社内に3人しかいない「お好み焼士マイスター」の資格を保有する春名陽介さんはこう語り、間髪入れずに続ける。
「でも、お好み焼きは簡単そうに見えて、非常に難しい。焼く人によって、材料の配合によって、鉄板の温度によって味が変わる食べ物です」
お好み焼きをおいしく焼くために、最も大切なのは「温度」だという。この技術を身に付けるのが何よりも重要だと春名さんは訴える。
「一枚一枚、お好み焼きの“顔”を見ながら、このお好み焼きはちょっと焼け過ぎだから、火の弱いところへ移してあげようなどと、手助けをするのが私たち調理する人の役目。お好み焼きを焼く工程ごとに、どれが一番良い状態であるかをわかってないとおいしくなりません」
春名さんによると、広島お好み焼きの場合、160〜230度の範囲で焼いていくのがベスト。お好み焼きの状態を見ながら適宜、火加減を変えるために鉄板の場所を移動させる。よく広島お好み焼き店の店主が鉄板の上でお好み焼きを何度も動かしているのはそういった理由なのだ。

鉄板に水を撒いて温度を確かめる
お好み焼きに向き合う心構えをうかがった後、実演を交えながら、オタフクソース流の広島お好み焼きの焼き方をレクチャーしてもらった。
広島お好み焼きの生地は薄く、丸く
今回作る広島お好み焼きのレシピ(1人前)は以下の通り。
・生地……50グラム
・豚バラ肉……40グラム(3枚)
・卵……1個
・焼きそば麺(ゆで麺)……1玉
・キャベツ……150グラム(千切り)
・もやし……30グラム
・青ねぎ……5グラム(小口切り)
・いか天入り天かす……10グラム
・削り粉……適宜
・細末昆布粉……適宜
・ほぐしだし……40cc(料理酒12cc、万能だし4cc、水24cc)
・青のり粉……適宜
・お好みソース……60グラム
なお、本レシピはお好み焼き店向けの業務用レシピ。ホットプレートで作る家庭用レシピはオタフクソースのWebサイトで公開されている。
https://www.otafuku.co.jp/recipe/cook/hirosima/hiro01.html
生地を作る際はダマができないように、水の入ったボウルに粉を入れて混ぜる。また、キャベツは芯に対して直角に包丁を入れて、千切りにすると良い。
まずは生地を焼くところから。おたま8分目の量の生地を入れて、160〜180度に熱した鉄板の上に、薄い丸型になるようにひく。その際のポイントは、おたまを鉄板に対して水平に持ち、均等の力で動かして、生地の中心から外へ外へと渦巻き状に広げていく。

生地の大きさの目安は直径20センチ
チェックポイントは「蒸気」
次に、空気が入りやすいようにキャベツをふんわりと乗せて、天かす、青ねぎ、もやしの順に重ねていく。うまみとなる削り粉・昆布粉を全体に満遍なく振りかけた後、豚バラ肉を3枚、川の字に並べる。その上に生地を少量かける。
そうしているうちに、下敷きとなっている生地から香ばしいニオイがしてきた。生地の周りが浮いていたら焼けている証拠。それを確認してすぐにひっくり返す。この時の鉄板の温度は200度以上にしておくこと。
生地の下にあるキャベツに熱が加わり、蒸されることでどんどん蒸気が立ち上ってくる。春名さんの手にかかったお好み焼きは、垂直に一気に上がっていく蒸気だった。仮にこの時点で火が弱ければ、蒸気は少ししか出ないという。

ひっくり返すと、すぐに蒸気が勢いよく立ち上る
ただし、ずっと同じ位置で焼いているとキャベツが焦げるため、少しずつお好み焼きの場所を変えていく。次第に蒸気が出る方向も横にたなびくようになった。これはキャベツに火が通って蒸気量が少なくなった合図である。そして、肉が焼けたことを目視で確認したら、温度の低い場所へ移動させる。この時のお好み焼きの中心温度は100度を超えているのが理想。
生地、野菜、肉、麺、卵が美しい層に
続いて、麺を投入。酒や出汁が入ったほぐしだしをかけ、高温でさっと炒めて、お好み焼きの生地よりも面積が少しだけ大きくなるよう麺を広げる。その上にお好み焼きを載せて、山型に軽く押さえる。
最後に卵を1個割って、卵白と卵黄がうまく混ざり合うように丸く広げる。半熟の段階でお好み焼きと麺をすべて卵の上に載せ、上からヘラで押さえて形を整える。
仕上げにお好みソースをたっぷりと塗る。この時に春名さんはお好み焼きを半分に切って、中身を見せてくれた。生地、野菜、肉、麺、卵という美しい層になっている。

具材ごとにきれいな層ができていた
ソースの上に青のりを塗して完成。今回は早めに焼き上がるよう、高温でテキパキと調理してくれたため、12分程度で出来上がった。
味はというと、キャベツにしっかりと火が通っていて、ほのかな甘さを感じる。一方で、もやしはシャキシャキ感が残っていて、歯応えがいい。全体的には軽やかな口当たりで、ペロリと1枚平らげることができる、胃に優しいお好み焼きだった。

お好みソースをたっぷり。青のりは中央にたくさん塗すと見栄えがいいそうだ
記者も挑戦してみたが…
春名さんは常に蒸気の様子を見たり、焼き音に耳を傾けたりしながら、手際よくお好み焼きを鉄板上でくるくると動かしていた。ここまで仔細に温度管理をする必要があるのかと、改めて感心した。
ちなみに、筆者も広島お好み焼き作りに挑戦したが、生地を鉄板にひく段階で、早くも悪戦苦闘。生地が分厚くなり過ぎたり、逆に破けたり。この時に春名さんに指摘されたのは、スナップ(手首)を使いすぎているということ。生地を丸く広げる際には、手首を使わず、肘を固定して腕で回すことで、余計な力が入らずにムラがなくなるという。
また、お好み焼きをひっくり返す時に具材が飛び出たため、それを無理やり生地の下に押し込んでしまった。すると偏りができて、片側のキャベツは火が通り過ぎて、もう一方はほとんど焼けていない状態に。ドーム型になるように成型すれば、真ん中に空気の通り道ができて、きれいに蒸気が上がっていくとアドバイスを受けた。

盛大に具材が飛び出した
その後もしっちゃかめっちゃかで、春名さんをソワソワさせたが、適宜サポートしてもらいながら、何とか完成にこぎつけた。もっと鍛錬しようと痛感したのは言うまでもない。
なお、一般の人たちは鉄板でお好み焼きを焼く機会は少なく、自宅にあるホットプレートなどで調理することが多いだろう。その際のコツを春名さんに尋ねたところ、やはり温度管理が大切で、限られたホットプレートのスペースを有効に使うことがポイントだという。
読者の皆さんもぜひ試してみてはいかがだろうか。
取材・文・写真/伏見学
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