「一夫多妻を選ぶ人は減ってきています」
――「マサイ族の一夫多妻制」とは、どのような文化なのでしょうか?
多くのアフリカの民族では、一夫多妻制が古くから当たり前の文化です。というのも、ひとりひとりが広大な土地を持ち、何百頭もの家畜を飼っているため、家族が多いほうが管理しやすい。実利的な理由で成り立っていたんです。
でも最近は、子どもが学校へ行くのが当たり前になって教育費がかかるし、人口が増えてひとりが持つ土地も狭くなり、家畜の数も減ってきている。家族が多いほど負担が大きくなるため、一夫多妻を選ぶ人は昔に比べて減ってきています。
うちの夫の父や祖父の世代では10人以上の妻がいる人もいたそうです。でも、今では3人以上いる人は珍しいです。
――マサイ族の旦那さんは、どうやって夫人たちの家を行き来しているんですか?
「今日はこの家」「明日はあっちの家」という感じで、基本は公平に回るようになってます。でも、うちの場合はちょっと特殊で、私はいつも村にいるわけじゃなく、日本との2拠点生活なので、私が村にいるときは夫・ジャクソンはずっと私の家にいます。
――夫婦間での嫉妬や、第一夫人とのトラブルはないんですか?
そもそもマサイでは、結婚は“家と家をつなぐ契約”という社会的なもので、恋愛感情で決めるものではありません。だから感情的なトラブルにはなりにくいんです。
また、「子どもは宝」という価値観が根付いていて、結婚して子を育てるのは人としての使命だと考えられています。
――マサイ族のあいだでは、性に関する話題はオープンに話されるものなんでしょうか?
そういう話はタブーなんですよ。だから、他の家庭の事情はまったくわかりません(笑)。
女性同士の井戸端会議なんかも、子どものことか牛のことくらいしか話さないんですよ。テレビもないし、インターネットもやってないから、みんな話題が限定されるんです。
下ネタだけじゃなくて、例えば妊娠に関する話も絶対に公にしません。お腹が少しふくらんでいる段階はまだ性行為の延長だと区切られているんだと思います。臨月くらいになってようやくみんな口に出し始めます。
――マサイ族の男性は、日本人男性とどう違いますか?
マサイ族は「マサイであること」に強い誇りを持っています。うちの夫もそうですが、牛に関すること全般が男の役目で、女は家事をするという役割分担がはっきりしています。日本のように男性が家事を手伝う文化はありませんが、お互いにリスペクトがあるので不満もない。男尊女卑ではなく、きちんとした“分業”なんです。
日本から見れば“異文化”でも、彼女にとってはごく自然な日常。マサイの暮らしには、今の日本社会が見失いつつある“人間らしさ”が息づいている。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班