対応困難な患者さんが切り捨てられる社会
――これまでもメディアの取材やドキュメンタリー番組、著書などで精神疾患の方を取り巻く問題について積極的に伝えられてきたと思います。現代の精神科医療の問題点はどこにあると考えますか。
結局、扱いやすい人たちだけを扱うようになってしまったんですよね。今やこの国では、易しい問題に特化して取り組む人たちを「専門家」と呼び、メディアもその「専門家」を重宝します。対応困難な患者さんを受け入れて治療しようという先生は圧倒的に少なくなり、それと同時にメディアも事件化するまでは一切触れません。
専門家と呼ばれる人たちは、このような人たちが手錠をかけられて初めて言及します。つまり、精神科医療の領域ではなく、司法の領域になってからです。
私は司法機関に呼ばれて意見交換をすることがあるのですが、裁判官の方は実態を教えてくれますよ。被告人が心神喪失の状態にある場合は、公判手続きを停止して、公判に立てるようになるまで治療をします、と。その治療まで司法機関の役割にさせられているので、いま厚労省と法務省はガチガチの喧嘩になっています。
このことも、これから漫画にして伝えていかなければいけないと思っています。
――漫画を読んでいると、押川さんがかけがえのない存在であると感じてしまいます。後進の育成や業界の今後についての考えを聞かせていただけますか。
確かに、私はこの仕事ができるだけの特殊な経験や能力があったかもしれませんが、やはり無理が生じて心臓を壊してしまったんですね。いまはこうやってお話ができていますが、2年前に心筋梗塞を起こして、ICUで生死の境をさまよいました。
無理がきかない体になった今は、やはりチームでできる環境、それも自治体など行政と協働できる体制を作ることが大事だと考えるようになりました。後進の育成問題にも関わってきますが、実はいま北九州に拠点を置いて、「北九州モデル」を確立するために動いているところです。
制度や法律などのルールは国が作りますが、対応方針などは自治体が決めます。例えば、先ほど(#2インタビュー)も言ったように、埼玉と神奈川は精神病質の方を受け入れないと自治体が手放しました。
ですが、北九州は私が拠点を置いて活動していることもあって、その方たちを受け入れられる環境が作れると考えています。私はこれまで非常に難しいことに特化してやってきたので、そのノウハウをすべて提供して人材を育てていくチャレンジをしています。民間では、どうしても依頼者からお金をもらわなければ続けていけませんが、私はこれを自治体や行政の責任でやっていけるようにしたいんです。