高校生に投資を呼びかける金融教育、ここがおかしい!
――岸田政権は「資産所得倍増」を打ち出し、NISAの制度拡充や高校での金融教育必修化などを行っています。国民に投資を呼びかける政策については、どのようにお考えですか?
貯蓄に回っている個人金融資産を株式市場に誘導して、景気を活性化させる狙いなのでしょうが、似たような政策は過去に失敗しています。
例えば、20年ほど前に小泉政権で実施された住宅ローン政策ですね。住宅ローン減税を延長して、国民に家を買わせ、住宅市場の活性化を狙いました。しかし、結果は失敗。日本は長期不況から抜けられなかったし、当時、家を買ったためにローンの返済に苦しんでいる人は、今も少なくありません。
岸田政権がやろうとしていることは、この政策と極めて似ています。「住宅」が「株・投資信託」にすげ替えられただけです。
それに、高校での金融教育の強化といっても、その授業の講師をしているのは銀行や証券会社の担当者だそうじゃないですか?
――金融機関の職員が外部講師として授業を行うケースはしばしば報じられています。
そんなの、体のいい営業にしか思えませんよ。第一、金融教育はそもそも「借金はしてはいけない」とか「借りたお金は返そう」などの基本から始めるべきです。
それなのに、高校生に対して「株で資産形成しましょう」「NISAを利用しましょう」というのは違いますよね。株や投資信託はリスク商品なのだから、投資のリスクを徹底的に教え込まないと。それこそが正しい金融教育ですよ。
――最近では「米国株インデックスファンドは過去30年間、右肩上がりで伸びているから、長期保有すれば安定して利益が得られる」などの、低リスクを強調する売り文句をよく見かけます。
過去30年間って……。30数年前、日本はバブル最盛期で株価は3万8000円でしたが、今の株価は2万7000円そこそこです。2008年のリーマンショック後には1万円以下に落ち込んでいました。
30年後に社会や経済がどうなっているかなんて誰も予想できないし、たまたまアメリカの株価が過去30年間で成長していたからといって、今後もそれが続くとは限らないですよね。
ましてや、今は数年先すら見通せない時代です。数年前に新型コロナの流行やウクライナ危機を予測できた人なんてほとんどいないでしょう。長期投資は、そうした先の見えないリスクと付き合う必要があるので、決して「長期投資だから安心」とは言えないはずです。
むしろ、長期投資で都合がいいのは金融機関です。株が大暴落して顧客が怒鳴り込んできても「お客様、長期投資ですから。いつか上がるはずです!」と言い逃れできるんですから。