ホストクラブからラブホテル通いの毎日を経て…
まず彼女たちの職場に近いことがあるだろう。歓楽街に住んでいれば、デリヘルの待機所に近いだけでなく、個人売春もすぐにできる。また、一日、あるいは一週間ごとに代金を払えばいいので、その日暮らしの人にとっては都合がいい。そうしたことから、売春をしているホスト依存の女性の中には、どうしても漫画喫茶生活をする人が一定数出てくるのだ。
不幸だったのは、綾乃が孤独を埋めるために再び別のホストに入れあげたことだ。彼女は毎日のようにホストのもとへ通い、店が終わればラブホテルへ行った。むろん、代金はすべて綾乃持ちだ。
この時、綾乃には物事を客観的に考える心のゆとりはなくなっていた。まるで薬物中毒者のように、とにかく日に何人か客を取って現金を手に入れ、それをすべてホストに投入して一時的に心を満たし、翌日になるとまた売春をするという負のサイクルに入っていたのである。
そんな中で、彼女は体調の悪化を自覚する。検査をしたところ、妊娠が発覚した。客の子か、ホストの子かわからなかった。中絶をしたいと言うと、医師からは次のように告げられた。
「もう11週になっていて、あと5日で中期中絶になります。うちでは中期中絶はやっていませんので、別のクリニックへ行ってください」
中期中絶は身体へのリスクが高くなるだけでなく、手術費用も2~3倍に上がる。綾乃は頭が真っ白になった。どうしていいかわからなくなったのだ。
普通に考えれば、綾乃が進むべき道は、2週間くらい必死に売春して金をためて手術を受けるか、実家や友人に相談して金を借りて手術を受けるかだろう。しかし、彼女はどちらも選択しないまま、「思考停止」の状態に陥ってしまった。
これは嬰児殺しをした女性の多くに共通することだが、幼少期に虐待を受けた人は都合の悪いことに直面した時に思考停止をする傾向にある。