入学前…神奈川に「すげぇ中学生がいる」
高校の団体競技において、これほど勝ってきたチームはおそらくない。この年、「平成の怪物」松坂大輔を擁し、甲子園球場で開催される春の選抜大会と夏の選手権大会で優勝した名門・横浜高校ですら、全国制覇は5回である。
9冠へと導いた監督の加藤三彦の言葉は、そのことを認めるように核心を突いていた。
「田臥たちが入る前の年(95年)だって、インターハイとウインターカップの2冠を獲った強い世代なのに、消されちゃってますからね。それくらいすごいことをしたってことなんですよ、彼らが成したことというのは」
この時代の能代工で中心にいたスーパースターの田臥は、まさに「現象」とも言うべきものだった。
田臥が覚えているのは、勝てたことへの安堵感と東京体育館の息づかいだった。42歳となった現在でも、すぐに時間を巻き戻し、当時の感覚を呼び覚ますことができると言う。
「東京体育館の景色は鮮明ですね。あの独特の感じ――お客さんの歓声だったり、会場の熱量というのは思い出です。高校生であの経験をさせてもらえたのは財産でした」
能代工に入学する前から、田臥は田臥だった。
神奈川県の大道中時代は無名に近い存在ながらも、そのプレーにひとたび触れた者たちは「なんだあいつは!」と唸った。
中学3年になる直前に開催される、「ジュニアオールスター」と呼ばれる都道府県対抗ジュニアバスケットボール(現在の全国U15バスケットボール選手権)でのことだ。京都選抜として出場しており、のちに能代工でチームメートとなる洛西中の前田浩行は、神奈川代表の田臥の舞いに目を丸くした。
「すげぇのがひとりいるなって。とんでもないパスを出したり、自由に動き回っていて。とにかくうまいなって思いましたね」