「珍プレー」という言葉が生まれた世紀のプレー
白熱の乱闘シーンにまさかの珍エラー、さらには試合前の選手たちの素顔など、数々の名シーンをお茶の間に届けてきたフジテレビの『珍プレー好プレー大賞』。
毎年、セ・パ両リーグあわせて800試合以上行われる中から、選りすぐりのシーンをピックアップする作業は想像を絶するものだが、なんとそれをひとりで担当しているのが、ディレクターの戌亥芳昭(いぬい・よしあき)氏だ。
「毎年、シーズン中からニュース映像や記事を見て、面白いものがあればその都度、リストアップしてきました。それに加え、最近はTwitterで全国のファンが様々な情報をあげてくれるので、SNSも駆使してネタを集めています」
1995年から30年近く番組に携わっている戌亥氏。映像をピックアップする際の基準として意識しているのは、「野球のルールを知らない人が見ても面白いと思ってもらえるような、極力、説明の必要がないシーン」だという。
「言ってみればラーメン屋さんのテレビで、音なしで映像だけを見ても楽しめるものですね。そこに軽妙な音楽や効果音、さらにナレーションを加えて編集するという番組の基本は、40年間、変わっていないんです」
今や「珍プレー」という言葉は広く世間に定着した感があるが、実はこの言葉が生まれたきっかけとなったプレーがある。80~90年代におもに中日で主力として活躍した宇野勝の"世紀のヘディング"がそれだ。
1981年8月26日、後楽園球場で行なわれた巨人戦の7回裏。巨人・山本功児が打ち上げたショート後方へのポップフライを、捕球態勢に入っていた宇野がまさかのヘディング。打球は大きな放物線を描いてレフトフェンス際を転々とした。
「まさに珍プレーの元祖ともいえるプレーで、これにみのもんたさんが面白おかしくナレーションを入れて当時の『プロ野球ニュース』で放送したことから、『珍プレー好プレー大賞』という番組も始まりました。それまでは単なる“エラー”として片づけられていたプレーが、新たに“珍プレー”として脚光を浴びるようになった、歴史的転換点ともいえるプレーだったと思います」