今の人生相談界における「毒親問題」の第一人者は、間違いなく、作家で演出家の鴻上尚史さんです。ニュースサイト「AERA dot.」などで連載中の人生相談には、しばしば毒親の悩みが登場。相談者に寄り添った「神回答」が、毎回大きな反響を呼んでいます。

3つ目にご紹介するのは、親の側からの反論。62歳のみどりさんは、30代後半の息子が高校生のときに彼女から届いた手紙を勝手に読み、「猛烈に腹がたち」「心を鬼にして」捨ててしまったとか。息子が成人してからそのことがばれ、関係が変わったと嘆きます。しかし「息子のためにと親心でしたことがそんなに恨まれることでしょうか」と、まったく反省する気はありません。鴻上さんは行間に憤りの気配を漂わせつつ、表面上は礼儀正しくこう答えます。

〈みどりさんは、「息子のことを思って」いれば「ポストにあった息子の彼女からの手紙を読んで捨てる」ことも許されると考える親なんですね。(中略)僕にも子供がいますが、僕は子供が、どんなに危ない恋愛をしていると見えても、子どもの手紙を勝手に読んで捨てることはないと思っています。それは親であっても、人間としてやってはいけないことだと思っているからです。(中略)ちなみに、「毒親」という言葉は、子供側からの言葉です。言われた親側は納得しません。子供を虐待した親も、必ず「しつけだった」と言います。(中略)「あなたのためにしているの」という思い込みと言い訳があるから、「毒親」問題は厄介なのです〉
※初出:月刊誌「一冊の本」およびニュースサイト「AERA dot.」の連載『鴻上尚史のほがらか人生相談 息苦しい「世間」を楽に生きる処方箋』(2019年4月~12月)。引用:鴻上尚史著『鴻上尚史のもっとほがらか人生相談 息苦しい「世間」を楽に生きる処方箋』(朝日新聞出版、2020年刊)

「毒親」と子どものあいだにある深く暗い溝が、見事に浮き彫りになっています。おそらく相談者が、自分のやったことの愚かさに気づく日は来ないでしょう。鴻上さんは最後には、息子との関係の修復は無理という前提で「ご自分の人生を楽しむことをお勧めします」と突き放しています。「あなた(子ども)のためを思って」というフレーズを口にしたことがあるすべての親は、自分が「毒親」になっていないかどうかを反省してみたほうがいいでしょう。ただ、該当者に限って、胸を張って「自分は大丈夫!」と言いそうですけど。

佐藤愛子、渡辺えり、鴻上尚史が「毒親」からの逃げ方を指南する_3

おそらく「毒親」の問題は、大昔からあったでしょう。しかし、どんな親でも、子どもの側が否定したり嫌ったりすることは許されませんでした。「毒親」という言葉が広まったおかげで、自分の苦しさの原因が親にあるのかもしれないと気づく人が増えたし、「逃げる」という選択肢も必要なら選んでいいという認識が広まっています。「毒会社」や「毒配偶者」なども含めて、一度しかない大切な人生を「毒」に苦しめられ続ける必要はありません。

佐藤愛子、渡辺えり、鴻上尚史が「毒親」からの逃げ方を指南する_4

(文/石原壮一郎、イラスト・マンガ/ザビエル山田)