続いては、帰りが遅くなると母親に罵倒されるという19歳の女性からの相談。母親は昔から、逆らったり口答えしたりすると、怒るのではなく寝込んでしまったとか。「私は罪悪感を覚え、いつしか母に口答えすることはなくなりました」と言います。

この、追い詰められている気配の相談に答えるのは、女優の渡辺えりさん。長年「劇団3○○(さんじゅうまる)」を主宰し、劇作家、演出家、脚本家、女優として活躍。最近は若手の育成に力を入れています。渡辺さんは「(お母さんは)視野が狭くなっていて、あなたに執着することでしか自分を保てないでいるのだと思います」と推測しつつ、「一刻も早くお母さまの元を離れてください」と背中を押します。

〈なるべく、今の家から遠く離れた所のアパートにしてください。(中略)あなたは自由になるべきです。そして自由の厳しさも知り、遠く離れた母親を客観的に見る目を持つ。そして毎日働いて勉強し、自立してください。そして、そこからもう一度考えてみてください。あなたはお母さんのことが嫌いなはずです。(中略)自分が母親を嫌いになってはいけないという強迫観念から逃れてください。娘を自分の持ち物のように思い、いつまでも自立させずに縛ってしまう母親は誘拐犯と同じ、もう母親とは言えません。嫌っていいと私は思います〉
※初出:毎日新聞の連載「人生相談」(2016年10月~2019年7月)。引用:渡辺えり著『渡辺えりの人生相談 荒波を乗り越える50の知恵』(毎日新聞出版、2019年刊)

「親を嫌ってはいけない」という“強迫観念”は、毒親に苦しむ子どもをさらに苦しめています。その呪いから逃げて「自分はこの親が嫌いなんだ」と自覚することは、苦しみを際限なくふくらませないための必須条件。「嫌い」と思うことを自分に許した上で、嫌いを前提とした付き合い方を探って、ストレスを最小限に抑えましょう。親の側だって相性や心のキャパなどいろいろ事情がありますから、子どもが好きとは限りません。

佐藤愛子、渡辺えり、鴻上尚史が「毒親」からの逃げ方を指南する_2