飼いやすい子なんて存在しない
たとえば、白と茶のブチ柄のボスは、骨と皮ばかりでガリガリに痩せ細り、貧血や下痢の症状がありました。その子を引き取ったときのこと。家に帰ってご飯を出すと、ボスはじーっとお座りをしてご飯を見つめていました。
もしかして「待て」をしているのかな、と思い「よし!」と言ってみるとガツガツとあっと言う間に食べてしまいました。その姿がかわいく、「全部食べてえらいね!」と、手を軽く上げてなでようとしたところ、ボスは急に身をかがめておびえ始めました。もしかしてボスは前の飼い主から叩かれていたのかもしれない、と思いました。
ボスとは少しずつ信頼関係を築いていきましたが、ある日、私が耳掃除をしようとしたところ、血が出るほどの強さで手を噛まれてしまいました。ショックで怖くなりました。
でも、噛んだボスもソワソワして不安そう。私は「大丈夫だよ」と、ボスにしっかり伝えられていなかったのではないか、と思い直しました。
そして、またゆっくりゆっくり、「お利口さん」「えらい!」と声をかけながら、ボスの嫌がる表情や仕草を確認しながら、耳の状態を確認しました。外耳炎を起こしていました。きっと痛かったのですね。我慢して私が触るのを受け入れてくれたボスに、改めて愛おしさを強く感じました。
ほかにも、おじいさんと暮らしていた盲目のチロちゃんを、おじいさんの死後に引き取ったことで、高齢でも若くても看取ることの大変さ、責任の重さを痛感した経験、野犬を引き取り人間の身勝手さに気づいて心苦しくなった経験、保健所で犬猫を保護している職員さんの思いなどを描いています。
私は幼少期から犬や猫が大好きで、人と犬の絆を描いた映画やアニメを見ては憧れていました。でも大人になり、いざ犬と暮らしてみると、映画やアニメは美化されているのだと知りました。
噛まれたり、家のあちこちでおしっこをされたり。でも、考えてみれば、犬は人間ではなく、言葉は通じないし、でも命ある生き物なのですから当たり前。犬によって個性も違います。飼いやすい子なんて存在しません。
でも、一緒に暮らしてみるとどの子の命も尊く感じられ、どうしようもなく愛しい。保護犬たちがそんな存在であることを、この本からくみ取っていただき、犬を飼いたいと思ったときに、保護犬という選択肢があることを知っていただけたら嬉しいです。
「たまさんちのホゴ犬」より「野犬が家にやってきた」の1~11話公開中(すべての画像を見るをクリック)