僕が提示した示談の条件

とはいえ、たとえ「北朝鮮」の人であったとしても、「拉致問題」や「ミサイル」や「核実験」を理由に、それらとは何の関係もない一般のコリアンに因縁をつけたり暴行を加えたりすることは、完全なるヘイトクライムであり、決して許されることはない。

それでも今回、僕はこの件についてB氏との和解に応じることにした。それは、彼がネットのデマやメディアの報道により間違った認識から生じた、自身の言動を反省していると判断したからだ。彼はレイシストではなく、こういうと抽象的で語弊があるかもしれないが、言ってしまえば本当に「普通の人」だった。

もし僕が今回の件をドライに法律に訴えて、勝利したとしても根本的な解決には向かわないと思うし、むしろ当事者同士が対話をした示談の先に、有意義な未来があるのではないかと考えた。

なので示談の条件として、B氏に在日韓国・朝鮮人の歴史的背景を多角的に学んでもらうことで、決着をつけることにした。この結果に僕自身は納得している。

もちろん、今後も同じようなことが起こるかもしれないし、死者が出てからでは手遅れだとも思う。それでもキング牧師の言葉をお借りすれば、いつの日かかつての加害者と被害者が兄弟として、家族として同じテーブルにつけることを目標にすることが最善なんだと思う。

全ての物事が対話や尊重によって解決するとは限らないかもしれないが、それでも対話や尊重を諦めない限り、解決は不可能ではないと僕は信じている。

著書の「ぼくは挑戦人」にも書いたけれど、ヘイトスピーチのデモに参加していた若者二人に声をかけてじっくり話し合い、最終的には一緒にご飯に行って仲良くなった。

今回の件が同じような方向に進んでいくかはまだ分からないけれど、もう少し時間が経って、その時が来たら、B氏とミナミの街で乾杯でもできたらなと思う。

マスメディアも日本の歴史教育も、朝鮮籍のことや同じ日本で暮らす在日のことをほとんど伝えてくれない。ならば僕は、これからもジャグリングショーや講演会を通じて、少しでも多くの人に在日のことを知ってもらい、共に生きていくことを伝え続けたい。

文/ちゃんへん.