『ブラック・バード』|連続殺人犯の正体を暴け。囚人が託された極秘任務【今からでも間に合うネットドラマ|宇都宮秀幸】_1
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連続殺人犯の正体を暴け
囚人が託された極秘任務

 ある犯罪者が、釈放を条件に別の犯罪者から自白を引き出すことを命じられる。潜入捜査ものとしても非常にユニークな設定だが、実際にあった事件に着想を得た物語というから驚きだ。実話がベースの作品に定評があるApple TV+の中でも、刺激性だけでなく、その脚色の巧みさゆえに必見のドラマである。

 麻薬売買で10年の実刑判決を受けたジミーに、FBIから信じがたい誘いがくる。刑務所に入り、余罪が疑われる殺人犯ラリーから犯行の証拠を導き出せればジミーを釈放するというのだ。ジミーは正体を隠しラリーに接近するが、そこには想像だにしない事実が待ち受けていた。

 美男子で会話上手であり女性には不自由しないジミーと、冴えない風貌で社会にうまく適応できないラリー。対照的な二人の男が本心を探り合いながら展開するスリリングな会話劇こそ、まずは本作最大の見どころだろう。困難な任務に苦悩するジミーを、持ち前の軽妙さと憎めない色男ぶりで快演するタロン・エガートンも魅力的だが、一見気弱に見えて底知れぬ不気味さを放つラリー役ポール・ウォルター・ハウザーがやはり圧倒的だ。

 女性ばかりを標的とした連続殺人の容疑者であるラリーは、本当にシリアル・キラーなのか? またジミーはその決定的証拠をつかめるのか? サスペンス・ミステリーとしての強い吸引力の一方で、このドラマの底流にあるのは異性を巡る敗者と勝者の残酷なコントラストである。

 容姿と性格にまつわるコンプレックスから女性にゆがんだ欲望しかもてないラリーに、モテ男のジミーが翻弄される逆転の構図。反対にラリーにとってジミーは妬むべき敵である以上に憧れでもあり、ジミーに対等に接してもらえることはラリーの自尊心をくすぐることなのだ。実社会では交わるはずもなかった二人の遭遇があぶり出す「男ゆえの苦しさ」こそ、本作の隠された主題のようにも思える。

 英語名ブラックバード=クロウタドリは、繁殖のためオス同士が激しく争うという。推理ものの形をとりながら、題名が示すとおり、本質は男と男の極めて繊細な心理劇であることに感心した。

『ブラック・バード』
監督/ジム・マッケイほか 出演/タロン・エガートン、ポール・ウォルター・ハウザー、グレッグ・キニア、レイ・リオッタ

実際の殺人事件がもとのシリアス・ドラマ。主演は『ロケットマン』のタロン・エガートンと『リチャード・ジュエル』のポール・ウォルター・ハウザー。名優レイ・リオッタの遺作でもある。Apple TV+「ブラック・バード」全6話配信中。

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