SNSで発信、ネットでも野菜を販売

農園には、祖母が残してくれた土地への敬意と感謝を込めて祖母の名を冠し、「つや農園」と名付けた。年間40品種70品目以上を栽培する、少量多品目栽培をしている。経営的に考えれば、少品種で多量に作る農業の方が効率がよい。
けれどサトミは言う。

「まず自分達が、多くの種類の野菜を食べたい。その上で美味しくて安全な多種類の野菜を、興味を持ったご家族にも丸ごと提供したい。そんな思いでやっています」

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畑で草を取るユウキ。除草剤を撒かないため、春夏は雑草の世話に追われる

研修先で「農家として黒字になるには3年かかる」と言われた通り、まだ経営的には厳しいが、2021年からはネット通販も開始。SNSで発信し、共感してくれるリピーターのお客さんも徐々に増えてきた。

農家としての苦労についてサトミに聞いてみた。

「植物は生き物なので、こちらの都合を待ってはくれません。天候を見ながらの畑の管理はもちろん、多品目の野菜をセットにして販売しているため、検品や梱包作業は想像以上に手間と時間がかかります。また、農協を通さず自分たちで販売ルートを開拓しているので、お客さんとのやりとりや営業活動、事務作業など、仕事内容が多岐にわたります」

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つや農園で収穫、オーダーしたお客さんに箱詰めして発送する前の野菜セットの例。これで3~4人分

でももちろん、喜びも大きい。

「お客さんから『野菜が綺麗で立派』『野菜嫌いな家族がパクパク食べて驚いた』などの言葉を頂くと、肩の力が抜けて、思わず笑顔がこぼれ、やりがいを感じます。

一部、自家採種をして種をつなぐ活動もしているのですが、こんなに小さな1粒の種から立派な野菜ができるのかと、毎回感動させられます。1粒の種が誰かの手によって何十年も命が繋がれ、さらに私たちも未来へ繋げていくと思うとロマンを感じます」

移住し、つや農園を始めたのと相前後して、二人にはもう一つ大きな変化が訪れた。家族が増えたのだ。現在1才の長男と3人でのんびり散歩したりする休日が、何より心安らぐ時間だという。

「移住して気持ちに余裕ができ、何気ない日常に幸せを感じるようになりました。当たり前に生活できていること。スーパーに行けば必要なものが年間通していつでも買えることや沢山の人の手によって社会が成り立っていることなど、移住前には考えが及ばなかったことに有難さを感じるようになりました」(サトミ)