差別的なネタで笑えなければ、お笑いファン失格?
――西澤さんはこれまで多くの芸人インタビューをされてきました。そんな中で、どうして『女芸人の壁』という「女性」括りの本を刊行されたのでしょうか?
「女性芸人から、今の女性の社会における立ち位置の変化を考えられないか」というのが、文春オンラインで始まった連載『女芸人の今』のきっかけでした。これはジェンダーにまつわる問題に関心が深い女性編集者の発案だったんですけど、私自身にも思い当たる節がいくつもありました。
――それはどんな?
学生時代、ちょうど書籍の中にもインタビューが収録されているモリマンさんが活躍されていた頃の劇場に、よく私は通っていて、お笑いにのめり込んでいったんです。一方で大学で社会学やフェミニズムに出会ってもいました。講義やゼミを通じて小さい頃からの疑問「男らしさ、女らしさってなんなの」とか、「母性ってなんなの」とか、そういう疑問がひとつずつ可視化されていく気持ちよさがあったんです。
だけど、当時の劇場ではギョッとするような差別的なネタもたくさんあって。そういうネタを100%笑えない自分が、お笑いファンとして「失格」みたいな気持ちになったんですよね。
――なるほど。
せっかく見つけた趣味というか居場所のような、お笑いに対して誇らしさを感じていた私は、どこかで感覚を麻痺させてたんだと思います。女性編集者の提案で、一気にその当時の気持ちが蘇ってきました。本にも書きましたが、女性芸人のインタビュー連載はあの時自分の手で殺した当時の自分への贖罪みたいな意味もあったなぁと。