伝説のルーフトップ・コンサートで原点へ
アップルでのセッションはトゥイッケナムとは段違いに好調だった。一時離脱したジョージが、アップル・スタジオでは積極的に発言し、「今は演奏するのが楽しくて仕方がない」なんて言っているくらいである。
もちろん音楽面で激しく意見を戦わせる場面は出てくるが、レコーディングの合間にアマチュア時代のレパートリーや当時のヒット曲でセッションに興じたり、家族やスタッフとふざけ合ったり、とにかく笑顔が絶えないことに驚いた。
そしてTVライブの代案として、1月30日にアップル・ビルの屋上で通称ルーフトップ・コンサートが行われ、その模様がライヴ録音及び映画用にシュートされる。『Get Back』というタイトルは、バンドの原点に戻るべくライブ一発録りを行なうというコンセプトの象徴だった。
『ザ・ビートルズ:Get Back』は配信開始当時、未発表映像やレストアされた画像の鮮明さ以上に大きな話題になったのは、ネガティヴなシーンが少なく、笑顔とユーモアに満ちた場面が多かったことだ。
トゥイッケナムの映像が多く使われ、重苦しい内容でビートルズ解散へのドキュメントとして受け止められたオリジナルの『レット・イット・ビー』とは、編集のコンセプトが大きく違っていた。
旧作がこれまで復刻されなかったのは、メンバーの間に「真実を伝えていない」という気持ちが大きかったからだと思われる。ビジネスやバンドの将来を語り合うと意見が割れてしまうけれど、楽器を手にしてみんなで音を出すと、自然に心が通じ合う。やはりビートルズの礎は、ハイスクール時代からの音楽仲間というところにあるのだ。
発売順こそ逆になったが、ビートルズ最後のアルバムとしてレコーディングされた『アビー・ロード』の完成度の高さは、共同体ビートルズのポテンシャルの高さを見事に表現している。
結論めいたことを書くなら、俗にいう中期〜後期ビートルズを捉えたこれらの映像群は、エプスタインの下にいた4人の悪ガキたちが成長し、それぞれの自我に目覚め、独立していく「青春グラフィティ」なのではないだろうか。
大人のように見えても、解散時点でジョンは29歳、一番若いジョージは27歳。活躍の舞台は大きかったけれど、彼らの素の姿は、音楽を愛する多くの若者たちとそう変わらない。
そんな4人の成長と、バンドの人間模様を窺い知ることができる『ザ・ビートルズ: Get Back』。この秋、『リボルバー』制作の裏側、インドでの彼らの自然な姿を知った上で見ると、また違った視点で楽しめる。若々しいビートルズの内面的魅力が、一層ヴィヴィッドなかたちで胸に響くのだ。
文/金澤寿和