自分の足と勘で見つけたつもりの
ナイススポットに現れる『ゆるキャン△』の影
湖は南伊奈ヶ湖・北伊奈ヶ湖の二つに分かれていて、どちらも正確な記録が残っていないほど昔に作られた人造湖らしいのだけど、これがまあ息を飲むほどの美しさだった。
本当は紅葉シーズンが一番の見頃なのだそうだが、僕が訪れた日はまだタイミングが早かったので、紅葉はそこまで進んでいなかった。
でもそのおかげで人影少なく、静かで澄んだ空気に包まれ、いつまでもここにいたいと思うほどいい気持ちになった。
ああ、なんて素晴らしい場所を発見してしまったんだ。
いいぞいいぞと思っていたのだが、その場でスマホを使い調べてみると、どうやらここも人気漫画&アニメ『ゆるキャン△』の聖地として知られているそうだ。
出た、ゆるキャン……。
昨今、山梨県や静岡県のちょっとイカしたスポットに行くと、「実はここ、ゆるキャンの聖地で」という話に出くわすことが多い。
自分の足と勘で見つけたと思ったナイスなスポットに、すでにゆるキャンの魔の手(ディスってません、言葉の綾です)が伸びていることがわかると、「ああ、そうなのね」と少し(本当に少しだけ)鼻白んでしまうのは僕だけだろうか。
いや、ゆるキャンはとてもいい作品で僕も大好きなのだが、一介の小市民のこんな複雑な気持ちもどうか理解していただきたい。
そんな気分で伊奈ヶ湖をあとにした僕は、日本三大急流である富士川の横を走る国道52号をドライブし、この旅の最終目的地と定めた身延山久遠寺へと赴いた。
駐車場に車を停めて山門をくぐると、目の前に気の遠くなるような長い長い階段があった。
ひいこら言いながらそれを登ると、久遠寺の本堂に着いた。
本堂をお参りしたあとは、ロープウェイに乗って身延山の頂上にある奥の院まで行ってみた。
歩いて登ると2時間半かかるという奥の院まで、ロープウェイだとあっという間だった。
山頂は県内屈指のパワースポットと言われるだけあって、流れている空気が何か違うような気がする。
久遠寺を開いた日蓮宗の開祖・日蓮は、折にふれては身延山の頂上へ登り、故郷である房州(千葉県)の方角を向いて、その地にいる両親に思いを馳せ祈ったという。
その場所に建つお堂は、思親閣と名付けられている。
では僕も、親がいる東京・三多摩地区の方角を向いて思いを馳せてみよう。
いい場所だったな、心が洗われたぜと余韻に浸りつつ、帰りのロープウェイを待ちながら土産屋をのぞくと、ああ、そこにも大量のゆるキャングッズが並べられていた。
身延山よ、お前もか……。
そんなこんなで大したことは何も起こらなかったが、大いに楽しんだ6日間の秋の車中泊旅も終わった。
経験を重ねれば重ねるほど車中泊の奥深さに触れ、ますますハマりつつある気がする。
次回の旅に出る頃は、かなり冷え込む季節になっているだろうから、寒さ対策とともに行き先もよく考えねばな、などと早くも次の旅立ちに想いを馳せているのである。
撮影・文/佐藤誠二朗