モノが作れなくなってきているアニメ仕事。業界構造の問題はデザインにも
―― すごい質感。写真では伝わりづらいと思いますが、表面にすごく細かい凹凸があってキラキラしていますね。
昔からやりたかったけどコストの面で断念していた加工だったんですよ。でも、最近わりと安価でできる技術ができたと印刷所の営業さんが提案してくれたおかげで実現できました。
僕は印刷所が大好きで、最初のアニメ仕事『MEMORIES』も印刷所の営業さんと一緒に作った意識がありますね。
―― どんどんデジタル配信の時代になってますけど、アニメはまだこういう「モノ」が作れる分野ですよね。
それが、アニメも盤が売れなくなってきているので、普通のものしか作れなくなってきているんですよ。最近は3万円くらいで販売されるBOXセットでも特殊な加工ができなくなっていて、とても残念です。
―― そうなんですね。上杉さんはアニメ関係のお仕事を始めて25年以上ですが、ギャラの移り変わりはいかがですか?
正直、あまり変わらないですね。
―― 最低賃金や物価が上がっていることを考えると、実質値下げですよね。海外にアニメ作品がたくさん輸出される時代なんだから、上がっても全然いいはずですけど……。
よく言われるように、アニメの制作現場も酷いものですけど、「一体どこがお金持っていっているんだろう?」って思いますよ。
正直、僕が作ったロゴだけがドンと乗っているグッズが販売されているのを見るとモヤモヤしてしまう部分がありますし……。少なくとも「こういうの作りました」ってサンプルを送るくらいはしてくれてもいいんじゃないかとか。
あと、昔は一つの作品が終わった後、LDとVHSとDVDのパッケージを一式デザインすることで仕事として回収できる流れがあったんですよ。でも、最近は作ったとしてもBD程度。なので、正直なところ商売あがったりです。
僕の懐事情を知っている知り合いには「多分みんな、上杉さんはもっと儲かってると思っているはずですよ」と言われます(笑)。
―― アニメ業界はお金周りのシステムについて改善の必要が叫ばれ続けていますが、デザイナーなど周囲にもその影響があるんですね……。
あと困ったことに、僕は最初の仕事が大友さんと『カウボーイビバップ』だったから「カッコいい系のアニメしかやらない人」みたいなイメージが業界内で作られているんですよ(苦笑)。
―― それは僕も「そういう系しかやらないのかな」と思ってました(笑)。
いやいや、こっちとしては仕事して暮らしていかないといけないから「美少女モノとかも全然やりますよ」って言ってるのに、「いや、上杉さんにそういう作品を振るのは申し訳ない気がして」って(笑)。
そういう無駄な遠慮が僕の生活を苦しめてるんですよ!ということは声を大にして言いたいですね(笑)。
―― ぜひこの記事を読んだアニメ関係者の方は、上杉さんにお気軽なご相談をお願いします(笑)。でも、今のアニメは海外人気も凄いし、海外で上杉さんの展覧会をやれたら盛り上がりそうですよね。
「フランスで展示するべき」ってよく言われるんですけどね(笑)。とりあえずは、これまでの仕事を公開する展示を9月30日から10月23日まで仙台PARCOで開いているので、ぜひそこに来てもらえたら嬉しいです。江口さんはじめ豪華ゲストを招いてのトークイベントもありますよ。
取材・文・撮影/照沼健太
UESUGI_DESIGN
GRAPHIC WORKS OF TOSHIAKI UESUGI
-上杉季明(マッハ55号)がデザインするアニメ・音楽・書籍の世界展-
2017年に発売した作品集“THE MACH55GO WORKS 55x20”から5年、さらにアップデートされた上杉季明(マッハ55号)の25年分のデザインワークを一挙公開!
『AKIRA』『COWBOY BEBOP』『攻殻機動隊S.A.C.』TVアニメ『ゴールデンカムイ』などのグラフィックデザインを中心に、石野卓球、東京スカパラダイスオーケストラなど、映像から音楽まで深く関わり続けたマッハ55号の仕事と、そのデザインが完成するまでの過程も本展覧会で紹介します。
山形県出身の上杉季明が手掛けた膨大な数の作品が地元東北に大集合する本展示をお見逃しなく!
■展示概要
期 間:2022年9月30日(金)~10月23日(日) 10:00~21:00 会 場:本館6F・SPACE6
入場料:無料
※最終日は18:00に閉場いたします。
※感染症拡大防止等の観点から入場者数の制限、営業時間の変更あるいは休業となる場合がございます。
■主催:仙台PARCO
■企画:仙台PARCO・有限会社マッハ五五号
■協力:はらっぱカレー店
https://sendai.parco.jp/pnews/detail/?id=20360