江口寿史の衝撃と『ゴールデンカムイ』『オッドタクシー』におけるアナログ仕事

巨匠の作品にもダメだし!? 『AKIRA』『カウボーイビバップ』『ゴールデンカムイ』などを手がけたデザイナーに訊く、アニメ業界のせつない舞台裏_9

―― 近年のお仕事で印象に残っているものを教えていただけますか?

江口(寿史)さんの仕事と『ゴールデンカムイ』ですね。江口さんは大友さんから紹介されて知り合ったのですが、最初の頃はただ一緒に飲むだけだったんですよ。でも、ある時「今Tシャツ作ってるんだけど、手伝ってくれない?」って連絡が来て。

待ってましたとばかりに打ち合わせをして「で、江口さん、これ納期いつまでですか?」って聞いたら、「本当は今日なんだよね」って(笑)。

―― まさかの当日しめきりですか(笑)。

「あ、これが『白いワニ※』の伝説かー」って思いましたよ(笑)。で、大急ぎでやって。それが初仕事でしたね(笑)。

でも、江口さんはとにかく人柄がいいし、何より絵が素晴らしく、大友さん同様デザイナー的な感性も持たれている方なので、その後も楽しく仕事させてもらってますよ。しめきりについては相変わらずですけどね(笑)。

※江口寿史の筆の遅さは伝説的。詳細は「江口寿史 白いワニ」で検索を

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―― 『ゴールデンカムイ』のあの有名なロゴは、版画風ではなく、実際に版画なんですよね?

そうなんですよ。彫刻刀を使って版木で3枚くらい彫りました。実物を札幌会場で展示したのですが、すごくウケが良かったですね。

みんなまさか本当に版画で作っていると思わず、デジタルでそういう処理をしたと考えていたみたいで。

―― 上杉さんはアナログな手作業を取り入れることが多いですよね。

『天元突破グレンラガン』のロゴなんかも、筆で何百枚も書きましたね。

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『天元突破グレンラガン』タイトル制作に使用されたデザイン用の平筆

あとは『オッドタクシー』もそうですね。井の頭公園で拾った木で作りました。

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映画 「オッドタクシー イン・ザ・ウッズ」のロゴはMacではなく手作業で作られた。

アナログの方が手っ取り早いし、自分の予想以上のものが作りやすいですからね。逆に「なんでみんな全部コンピュータでやろうとするんだろう」って思っているくらいです。だって、その方が時間もかかるじゃないですか。

―― デザインに限らず、現代においては、なんとなく「デジタルで行うのが当たり前」みたいな思考はありますよね。

アナログといえば、最近の仕事だとこれも気に入っているので見てもらっていいですか?