有望選手を集めれば勝てるわけではない

一方、高校野球界でヒール役になりがちな私立校にしても、何の憂いもなく野球に打ち込んでいるわけではない。大会終了直後、大阪桐蔭に対するネガティブな記事を何本か目にした。全国からその地域を代表する有望選手が集まってくる、大阪桐蔭のスカウティングがやり玉にあがっていた。

だが、選手の意思を無視して強引に勧誘しているなら大問題だが、選手は「大阪桐蔭に行きたい」と自分の意思で門を叩いているのだ。選手に望まれるだけの指導力、環境、進路を用意している大阪桐蔭野球部の運営努力を無視した批判は的外れだ。

そもそも、野球は有望選手を集めれば全国制覇できるほど単純なものではない。大阪桐蔭の恐ろしさは、中学時代に「お山の大将」だった選手たちを「戦う集団」として一つにまとめ上げるところにある。主軸打者であっても必要とあらば送りバントを決め、凡フライでも二塁まで全力で駆け抜ける。ベンチを外れた者たちは、仲間のために率先して裏方仕事や応援に回る。

大阪桐蔭には「一球同心」というスローガンがある。優勝後のキャプテンインタビューで星子天真(ほしこ・てんま)が開口一番「メンバー外の者に支えてもらって、思うような練習をさせてもらいました」と語ったところに、大阪桐蔭の真髄が見える。

準々決勝以降の3試合は平均16得点という、爆発的な攻撃力で圧倒した。高校野球に限らず、突出した「1強」が存在すると盛り上がりにくいのも事実だろう。

それでも、高校野球の裾野は広い。「打倒・大阪桐蔭」に燃えるチームや、大化けする可能性を秘めたチームは全国に存在している。大会直前にコロナ陽性者が続出したため出場辞退の憂き目に遭った京都国際や昨夏の王者・智辯和歌山などは、大阪桐蔭に対抗しうるポテンシャルがある。

こと、高校野球においては「公立vs私立」の図式で見れば、公立にとっては受難の時代と言えるかもしれない。だが、忘れてはならないのは大島にしても和歌山東にしても、昨秋の地区大会で準優勝を飾ったように強豪私立を倒してセンバツに駒を進めているのだ。ボール、バット、グラブ……とさまざまな道具を介する野球というスポーツは不確定要素が多く、番狂わせが起きやすい。だからこそ、これだけ国民的人気を得たとも言える。

これからも甲子園は「作られた大会」ではなく、何が起こるかわからない大会であり続けるはずだ。今から夏の甲子園が楽しみでならない。