甲子園練習が無くなったため守備にミス
大会前、もっとも注目を集めた公立校は奄美大島からセンバツへの切符をつかみ取った大島(鹿児島)だった。だが、大島は初戦で私立校の明秀学園日立(茨城)に0対8と大敗を喫した。「甲子園ベスト8」を目標に掲げた彼らは、日ごろから甲子園でのスピーディーな戦いを意識して「攻守交替20秒」と時間制限を設けるなど工夫してきた。それでも、甲子園では外野フライを捕球できないケースが続出。試合後、大島の塗木(ぬるき)哲哉監督はこう漏らした。
「今朝までどう守るか研究し、模索してきましたが、どうしても『慣れなかった』という結果になってしまいました。甲子園球場の特性を知識として知っていただけで、体感できていなかった。普段なら捕れていた打球でも、独特の球場の雰囲気、景色のなかで捕り損ねてしまいました」
今大会はコロナ禍のため開会式は初日(3月19日)に出場する6校のみで行われ、甲子園練習(大会直前に各校30分ずつ割り振られ、甲子園球場で実施する練習)はなかった。どのチームも条件は同じとはいえ、初出場校や広いグラウンドに慣れないチームにとっては酷な状況である。外野手のフライ捕球のミスが目立ったのは、大島だけではなかった。
結果論にはなるが、せめて試合前のシートノックの時間が所定の7分ではなく、10分だったら……と思わずにはいられなかった。前例がないわけではない。2021年夏の東京大会では東京五輪開催の影響で東京ドームを使用することになり、ノック時間を10分に拡大する措置が取られた。各チームは延びた3分間の大半を、天井があるため見づらいフライ練習にあてていた。「焼け石に水」かもしれないが、少しでも甲子園球場という場所に慣れる時間が増えることはプラスに作用したはずだ。
夢破れた大島だったが、その去り際の姿は印象的だった。
試合後、一塁側アルプススタンドを埋めた大観衆に向かって深々と礼をした大島の指導者と選手たちは、クルリと踵(きびす)を返すと三塁側に向かって再び一礼した。
試合後、塗木監督に振り返って礼をした意図を聞くと、「8年前の2014年(21世紀枠でセンバツ初出場)から続けていることです」と教えてくれた。
「お互いがあって、初めて野球ができるわけですから。相手への敬意を欠かしてはならない。明秀学園日立さんへの礼の思いを込めさせていただきました。それが我々の目指す『エンジョイングベースボール』なので」
想定通りに力を出し切れたとは言い難い。そんな残酷な現実に直面しながらも、大島はグッドルーザーとして甲子園を後にした。
一方、甲子園で存在感を発揮した公立校もある。春夏通じて甲子園初出場だった和歌山東は、開幕日に延長11回の熱戦の末に倉敷工を8対2で破っている。