日本の制度の現在地と、教育現場の課題

高橋:そんな中でも、令和元年に「成育基本法」という法律が施行されました。これは、「子どもやその保護者、妊産婦に対し、必要な成育医療等を切れ目なく提供するため」の法律です。成育基本法に沿った政策の中にプレコンセプションケアという言葉が用いられています。これは、「将来の妊娠に備えて健康な体を保とう」という考え方です。

この考え自体はとてもすばらしいし大事なのですが、これだけだと妊娠して産むことだけを勧められているように感じる人もいるんですよね

「産む」か「産まない」かの二択であるという前提の下、「産む」ことを選択した場合に必要になってくるのがプレコンセプションケアだという理解になるためには、「SRHR(性と生殖に関わる健康と権利)」という土台が必要です。この性に対する意識の土台を耕すために、外部講師として我々医師や助産師などが学校に入り、性教育を行なっています。

新橋:厚生労働省でこのような研究や法律の制定が進められている一方で、その情報が文部科学省から全ての学校にしっかりと行き渡らないことも大きな課題ですよね。

私は教育学部生なのですが、平成29年に改訂された学習指導要領では、性教育に関して「保護者の理解を得る」などの配慮が必要と書かれていることを知って驚きました。ほかの指導内容にはそんな留意点は書いていないのに。世の中の流れに伴って、性教育がタブーという学校現場の風潮が変わってほしいなと思います。

一方で、同世代の教育学部生には、性教育やジェンダーについて「知っておかなきゃいけない」「将来子どもから相談されるかも」と考え、必要感をもつ子は多いと感じます。そのような考えをもつ先生が教育現場に増えてほしいですね。

後半では、日本で性教育や中絶がタブー視されるワケと、お二人が考える理想の性教育の在り方に迫る。

参考資料
「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」(性を学ぶセクソロジー)
「令和2年度の人工妊娠中絶数の状況について」(厚生労働省)
「10代の妊娠 友だちもネットも教えてくれない性と妊娠のリアル」著者:にじいろ、監修:高橋幸子(合同出版)
セーフアボーションジャパンプロジェクト

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