本当の意味で日本に導入・浸透させるために必要なこと

現在、制度が整えられようとしている中で、日本が「中絶薬が活かされる社会」になるために必要になるのは、「中絶の捉え方」の変革でしょう。

2016年に日本家族計画協会が実施した「第8回男女の生活と意識に関する調査」によれば、中絶を経験した日本人女性に対して「最初に人工妊娠中絶を受けるときの気持ち」を聞いたところ、「赤ちゃんに申し訳ない」が58.6%、「自分を責めてしまう」が17.1%、「人生において必要な選択だった」が17.1%という結果でした。

私は、人工妊娠中絶を女性の権利として捉えられるようになるには、この質問に対して「自分にとって必要な選択だった」と回答する割合が100%になる必要があると思っています。このように答えられるようになって初めて、日本人女性のセクシュアル・リプロダクティブ・ライツ(性と生殖に関する権利)が保障されることになると考えます。

日本では、「初めての妊娠は中絶しないほうがいい」「中絶をするとその後妊娠しづらくなる」など根拠のない迷信が拡がっていて、女性に中絶をためらわせてしまうことが少なくありません。

また、「あのとき中絶せずに産んでよかった」「あのときの子が今こんなに大きくなりました」というような自身の経験を講演などで話される方がいます。そういった方の考えや経験を否定するわけではありませんが、中絶を女性の権利だと捉える視点からすれば、こういった講演はある意味、中絶の選択の機会を奪ってしまいかねないとも言えます。

私は、著書『新版ティーンズ・ボディーブック』(中央公論新社)で「産むことだけが美徳ではない」と書いています。

なぜ今も子宮から“掻き出す”のか。世界85カ国が導入する「経口中絶薬」が日本で使われてこなかった理由_3
『新版ティーンズ・ボディーブック』(中央公論新社)

妊娠をした以上、大原則としては産み、育てて欲しいですが、100%の避妊方法がない以上、計画外の妊娠があるのは仕方のないことです。出産し、育てることは1、2年で済むことではありません。産んでから子供が自立するまで約25年かかると考えたら、慎重に考え・判断しなければいけないのは当然のことです。

一方で、同書に「中絶すればいいというものでもない」とも書いています。様々な視点から考え、本人ができるだけ後悔のないように妊娠・出産についての意思決定をしてほしいと願っています。

その一つの選択肢として中絶薬が日本で承認され、女性のセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツの向上につながっていってほしいですね。

参考資料 「安全な中絶 医療保健システムのための技術及び政策の手引き 第 2 版」(WHOリプロダクティブ・ヘルス部)
https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/70914/9789241548434_jpn.pdf?sequence=10