小山田氏の弁明を孤立させなかったファンたちの奮闘

先述の小山田氏自身による「お詫びと経緯説明」(2021年9月17日)は、学校時代のいじめの一部を事実と認め、また問題とされた2誌――『ロッキング・オン・ジャパン』1994年1月号『クイック・ジャパン』3号(1995年8月)――での発言の軽率さを謝罪しながらも、前者の誌面に掲載された発言には深刻な誇張と歪曲が見られ事実そのままではないこと、しかも21世紀になって匿名掲示板やブログを通して広まるようになった雑誌記事の引用にはよりいっそうの問題があるのに、それらが報道のソースとされていることを説くものであった。

かつての「未熟な自分の在り方」への率直な反省を含め、全体を通しての誠実な調子は誰の目にも明らかだとはいえ、世の中は誠実な調子のもとに書かれた言い逃れや取り繕いの弁明で溢れている。それぞれの主張に根拠が示されているわけでもないことから、小山田氏の「お詫びと経緯説明」を後付けの言い訳とみなすのは1つの可能な選択だ。じっさい、今なおそのようにみなして片付ける人もいるのだろうとは思う。

しかし小山田氏の弁明は、決して孤立していたのではなかった。昨年7月後半の大炎上の直後から、彼のこうした発信が当然のものとして受け入れられるような環境が、徐々に整えられていた。

昨年9月の小山田氏の発信が正当に、また温かく迎えられた理由は何より、昨夏の巨大な騒動ののち、SNSや一部のウェブ媒体を通して熱心な情報修正の努力が、ファンや関係者によって続けられたことにある。

筆者自身は、岩波書店のnote上のメディア「コロナ時代の想像力」のために、昨年末から今年2月にかけて全5回の連載記事を発表した(「長い呪いのあとで小山田圭吾と出会いなおす」)。しかし遅れ馳せの総括と言える筆者の仕事に先立ち、騒動の直後から精力的に動いたのは一部のファンたちだった。

誰もが中心人物と目すのはブロガーのkobeni氏だ。ワーキングマザーとしての情報発信の傍ら、様々なポップカルチャー、とりわけ小沢健二氏をめぐる考察でも信頼を集めてきた同氏は、昨年8月から9月にかけ、この件の検証の成果を「その1.」、「その2.」と立て続けに発表し、年末にはウェブ上の放送局「DOMMUNE」の番組に出演して熱弁を振るった。

何より決定的だったのは、有志を募り「IfYouAreHere委員会」(名称の由来はコーネリアスの楽曲「あなたがいるなら」の英語タイトル)を組織して、詳細な検証サイトを立ち上げたことだ。

炎上騒動を超えて――小山田圭吾、活動再開の背景にあったファンの奮闘_2
if you're here. コーネリアスファン私設検証サイト
2021 ©︎IfYouAreHere委員会

もちろん同委員会の活動の周囲には、熱心にSNSでの発信を行い、あるいは自らはそうせずともそれらの発信を見守り支えた、数知れないファンたちの存在があった。とりわけ、女性ファンの存在が目立ったのは特筆に値する。