「ホラーエンターテインメント」に託す想い

––––手さぐり的に「ゾゾゾ」を開始し、「家賃の安い部屋」を経て「Q」に至る過程で、クリエイターとして内面に大きな変化はありましたか?

いや、それが…今まで色々とやってきましたが、いまだに「作る側」にいる実感があまりないんですよね。今日もこれからも「観る側」にいるような。なので、そういう意味では「変化がないこと」が大きなポイントかもしれません。

––––「ゾゾゾ」では「ホラーエンターテインメント」というモットーが提示されており、この部分に皆口さんの主張のコア要素が込められているように感じますが、その真意をお聞かせください。

自分はいわゆる「テレビっ子」なんですよ。「メディアとしてのテレビ衰退」という大きな社会的趨勢はどうしようもないにしても、全盛期のテレビ文化の良さを今の世に再構築して、皆でその愉しさを共有したい気持ちがすごく強くて。

今よりも元気だった頃のテレビって、微妙なツッコミどころ含めて愛でる・楽しむ面がありました。それが今、ネット文化の只中では、心霊番組も「ヤラセか、ガチか」というゼロサム的な二極分化が進んできて、グレーゾーンの面白みを嗜む気風が極度に薄れている。自分はそれを蘇らせたいんです。「ホラーエンターテインメント」という標語の、特に「エンターテインメント」の部分にはそんな意味を託しています。

とはいえ、制作側の“子供騙し”的ないい加減さがツッコミどころとなるのはよくないと思います。いずれにせよ、制作姿勢の誠実さが重要なのだろうなとは思いますが。

––––ある意味、プロレスの文脈にも通じる奥深さというか。

そうなんです。最近ちょっと考えさせられたのが、7月上旬、地上波テレビで珍しく心霊番組が放送されたんですよ。それも2本。あれはすごく嬉しかったですね。自分も観ていてとても面白かったですし。

でも、なぜかネットでは叩かれちゃう。「YouTubeの動画を見習え!」みたいな意見がけっこう目立っていて、正直悲しかったです。個人的には、コンプライアンスが厳しい環境下で本当によくやってくれた! ありがとう!という感じなのですが…。これはちょっと深い問題のような気がしますね。

カルト的人気を誇るホラー番組「フェイクドキュメンタリー『Q』」はいかにして生まれたのか?_7
「ホラーエンターテインメント」として多くの視聴者を獲得する「ゾゾゾ」

––––お話を伺っていると、特に「Q」については、かつて一世を風靡した後に迷走してしまった和製ホラームービーが持つ本来のポテンシャルを、「実はこうあってもよかったはずだ」という形で再構築し、世に問うことが目的という印象を受けますが、実際いかがでしょう?

それは志として確実にあります。昔、映画「リング」が世界的にヒットしたのを契機に、和製ホラー作品が「Jホラー」というブランドを纏って海外進出を図った時期がありました。でもあれって結局、和製ホラーの真髄を外国に伝えるというより、アメリカンなホラー演出が日本へ浸透するという本末転倒な結果に終わった感が強い。

これは私見ですが、和製ホラーの良さって、「恐怖の輪郭は見えているのに、自分が何に触れているのかよくわからない」という状況を湿度高く表現する点にあったと思うんです。でも何か大きな勘違いが生じて、「ゾンビ襲来」のような物理的な要素を増してしまい、今に至っている。そういう状況は一人のホラーファンとして何だか悔しいです。しかも自分だけでなく、日本のファンも世界のファンも、おそらく満足していない。(世界進出などは意識せず)日本人が怖いと思えるものに100%全振りした良質なコンテンツを作れば、それは翻って外国のホラーファンにも歓迎される作品になるだろうと思うんです。

––––ちなみにご自身では、何か超自然現象に遭遇したことありますか…?

自分の他に証言者もいる「客観的な事象」としては、現在は非公開にしている「ゾゾゾ」の「白い家」の回を編集しているときに起こりました。

スマホで撮影した映像を編集のためにエンコードしていると、何度やっても途中で毎回同じところでフリーズしちゃう。どういじくり回してもダメだったので、仕方なくその問題点のあたりをカットして抜き取って、前後を繋ぎ直したんですよ。そしてそれをYouTubeにアップして見てみると、なぜかカットして捨てた部分が復活してて…。しかも何か変なノイズが被っていて、視聴者からも指摘がありました。

しかも、この件で自分が狼狽えているそばで、落合さんがTwitterでネタにしていたという。「なんか皆口が騒いでる。滑稽だ!」みたく。こっちは笑いごとじゃなくて本気でヤバかったのに……あれは不気味な出来事でしたね。

––––最後ですが、「Q」ファンに観てほしい、知的インスピレーションの源泉となるような、皆口さんオススメの作品を教えてください。ジャンルは問いません!

インスピレーションという観点では、まず押見修造さんの漫画『惡の華』です。「刺さる」とよく表現されますが、あれだけ“鋭利な刃”を持つ作品はそうそうないなと。逆に、これだけ尖った表現でもやっていけるんだ、という面でも参考になりました。

また、最近の映画では「ミッドサマー」ですね。映像は明るくてキレイなのにおぞましい!という世界観構築のコントラストにシビれました。アリ・アスター監督は今後絶対追いかけ続けたいクリエイターです。

あと最後に映画「イット・カムズ・アット・ナイト」(トレイ・エドワード・シュルツ監督)を挙げたいです。病原体に侵食された日常を背景として展開される籠城サスペンス映画で、舞台は森林に囲まれた家を中心とした半径10mほどのエリアだけ。私が希求する和製ホラーに近しい重要なエッセンスを湛えつつ、それだけではないプラスアルファ的な要素も感じさせる、マイナーながら近年では出色の知的インパクト作品としてオススメです。