好きな映画スターは描く漫画にも影響していた
漫画家として第一線で活躍してきたおふたりは、どんな映画をご覧になってきましたか? 一条先生のエッセイ『不倫、それは峠の茶屋に似ている』には、映画『カクテル』(1988)に憧れてジャマイカ旅行に行かれたお話がありました。
一条 そうそう。トム・クルーズがジャマイカでバーテンダーになる話なんだけど、とにかくかっこいいの!
弓月 そういえば、そんな映画あったなあ。
一条 ジャマイカの景色も素敵だったの。ただ、私が好きな映画はやっぱり、『風と共に去りぬ』(1939)なんです。もう、これは人生でNo.1の作品。ものすごく影響を受けました。ヴィヴィアン・リー演じるスカーレット・オハラが、ラストでする決断は納得いかなかったけどね。
弓月 あの強気なヒロインねえ。
一条 クラーク・ゲーブル演じるレット・バトラーが去っていくんだけど、(故郷タラにこだわるスカーレットに対し)「生まれ育った土地は逃げないんだから、男を追いかけなさい!」と高校生だった私は思いました。岡山県の玉野市という田舎に住んでいたから、1時間かけて岡山市内に見に行きましたね。
弓月 玉野ではやってなかったの?
一条 やってるわけないじゃないですか。調べたら、上映時間が4時間くらい(3時間51分)あるんです。これは大変だと思って、お弁当を作ってひとりで見に行きました。お尻がすっかり痛くなっちゃった。ただ、ひとつだけ理解できなかったのは、スカーレットが愛するアシュレー。なんであんな男が好きだったのか理解できなくて、後で友達の映画評論家に聞いたら、当時、女子に人気の俳優だったんだって。
弓月 レスリー・ハワードね。
一条 アメリカの女の子とは全然好みが違うなと思いました。クラーク・ゲーブルのレット・バトラーはとても好きでしたけど。
スカーレット・オハラもレット・バトラーも、一条作品に出てきそうなキャラクターです。
一条 でしょう。だって、ものすごい影響受けたもん。私は昔からイケてるダンディなおじさんが好きなんです。ほら、イケてる男ふたりの映画があったじゃない……。
弓月 『スティング』(1973)?
一条 そう! ロバート・レッドフォードとポール・ニューマン。特にポール・ニューマンがすごく好きでした。
弓月 じゃあ『ハスラー』(1961)なんかも見たの?
一条 もちろん。『ディア・ハンター』(1978)や『デッドゾーン』(1983)のクリストファー・ウォーケンも好きでした。あと『卒業』(1967)のミセス・ロビンソンみたいな、イケてるおばさんも好きです。
弓月 演じたのはアン・バンクロフトだっけ。あのキャラクター、すごくいい。
一条 でしょう。私は当時、ヒロイン(ミセス・ロビンソンの娘)と同じくらいの歳だったんです。でも男に「私を連れて行って」とかいう女はダサいし、嫌だなって思っていて。大きくなったらミセス・ロビンソンみたいに、娘の男を奪うみたいな実力のあるおばさんになりたいと思いました。成熟したキャラクターが好きなのね。
弓月先生が好きな映画は?
弓月 『ローマの休日』(1953)。あんな夢のあるコメディはないよ。男の憧れなんじゃないかな。
一条 だって、ヒロインがオードリー・ヘプバーンですもん。
弓月 映画スターを好きになったことはあんまりないけど、オードリーは特別。『暗くなるまで待って』(1967)も好きだった。彼女は本当に日本人好みの正統派美人だよね。向こうではファニーフェイスなんて言われていたみたいだけど、それがすごく不思議でした。
一条 『ローマの休日』もそうだけど、彼女の相手役っていつもおじさん。そうすると彼女の若さやかわいらしさ、華奢さや成熟しきっていない感じがすごく目立つのよね。
弓月 でも立ち姿はピシーッとしていて、すごく綺麗。『ローマの休日』はオードリーじゃなかったら成功しなかったと思う。ブリジット・バルドーだったら全然違うものができたよね。ブロンドでもなく、グラマーでもないけど魅力的。あのかわいらしさは唯一無二だったと思う。