奥崎が構想していた『神軍』 続編の3つのシナリオ

――奥崎さんは刑務所の中でも徹底的に国家権力に頼ろうとはしなかったので、仮釈放も望んでいなかったそうですね。だからいつも満期出所だったと。

坂本 そうですね。たいていの受刑者は仮釈放してもらうために、刑務官にゴマをすりながら、上手に模範囚を装って出て行くんですよ。当時だと、無期懲役でも10年か15年ぐらいでみんな出所しましたから。でも彼は「国に借りなんか作りたくない」と、初犯で10年をきっちりと務めあげました。

 なるほど。その後、奥崎さんは出所して、天皇パチンコ玉事件や皇室ポルノビラ事件を起こしてニュースになるわけですが、あの事件を報道で知った時に、坂本さんはどう思われましたか?
 
坂本 ショックでしたね。刑務官は、受刑者を更生させてシャバに返す仕事なので、「あぁ、また帰ってくるのか…」と思いました。刑務官としてはつらいことです。

 でも、奥崎さんは自分の信念に基づいてやってるわけだから、刑務所に戻ることになっても、それは名誉だと思うような人ですからね。実は1983年に奥崎さんが元中隊長の息子に発砲して、懲役12年の判決を受けて刑務所に入った後、手紙をもらっているんですよ。なにかと思ったら「神軍のパート2を作っていただきたい」と。それで、「シナリオも書いてあります」と。

奥崎謙三が原一男に送っていた『ゆきゆきて、神軍』Part2の具体的構想_4
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多分、思いつきだと思うんですが、シーン1、シーン2、シーン3ぐらいまであったかな。そのシーン1というのが、奥崎さんが刑務所の中で運動しているシーンなんです。「それを刑務所の周辺の高いビルから原さん撮ってください」と書いてあったんですけど、そんなことは可能なんですか?
 
坂本 奥崎さん、その時は多分、熊本刑務所ですね。南側の道路を挟んだ向かいに、刑務所の運動場が一望できる県営団地のアパートがあります。奥崎さんはそのアパートを見て思いついたのでしょう。ちなみにシーン2はどんなシナリオだったんですか?

 シーン2は確か、奥崎さんが満期で刑務所から出てくると。周りには大勢の支持者が出迎えて、熱狂の歓声の中「バンザイバンザイ」となる。で、シーン3が、自分が事件を起こして迷惑をかけた人に、「申し訳ありませんでした」と謝りに行くと。そこまでシナリオができているというのを書いてきて、「ぜひパート2を作ってほしい」と。

で、私は撮るべきか撮らざるべきかを12年間悩んだんですけど、やっぱり撮っちゃいけないという結論になりました。

坂本 私は続編を観たかったですね。熊本刑務所について言うと、同じ刑務所でも、北海道から沖縄まである中、東京を起点にすると、西に行けば行くほど“悪い”んです。入っている受刑者のガラが悪いから、同じように刑務官も悪くないとやっていけない。

 そういうものですか(笑)。

坂本 そういう意味では、熊本刑務所の刑務官も“なかなか”なわけですが、そんな彼らでも、奥崎さんに対しては、一目も二目もおいて、身構えていたみたいですね。

 界隈ではすっかり有名人というわけですね(笑) 

取材・構成/木村元彦 撮影/下城英悟

後編 「8月15日に靖国神社で花束からドスを抜いて…」奥崎謙三が構想していた『ゆきゆきて、神軍』幻のシーン に続く

8月13日~19日まで、キネマ旬報シアター(千葉県)にて
『ゆきゆきて、神軍』が上映決定!
詳細はhttp://www.kinenote.com/main/kinejun_theater/home/