文献に書かれたアイヌ差別の証言
――最終回の現在に続いていくアイヌの描写は、単行本の描き下ろしによって、連載時よりかなり詳細に描かれています。描き下ろしされた、あの膨大な資料群は野田先生が集めたものですか?
はい。僕の持っているアイヌ関連の資料の一部ですね。著者としては、砂沢クラさんとかアイヌ語監修の中川裕先生やアイヌ初の国会議員になった萱野茂氏などなど……。
例えば、砂沢クラさんの自伝はアシㇼパと同じくらいの年齢のときのものなので、当時のリアルなアイヌの様子を知ることが出来ます。
家族で山に獲物を取りに行ったり、動物の脳みそに塩をかけて食べて暮らした話ですとか、口元に入れる入れ墨を嫌がったりだとか。
ちなみに、クラさんは「アイヌ」への差別について、著書でこう書かれています。
「『アイヌ』と意地悪をする人はどういうわけか、教育も受けられず、下働きをさせられている人たちばかりで、字も書けない人だった。学校の先生や医者、営林業や炭鉱業の人間など教育の受けた人たちは少しも威張らずアイヌを本当の日本人と尊敬し、大事にしてくれた。」
結局、自分より下の相手を見つけたい弱い心が、差別を作るのでしょうね。
――他に注目すべき資料は?
そうですね、どれも注目すべきではありますが、例えば『マキリ研究会通信』。
博物館や個人蔵のマキリを研究している方たちの本で、僕は著者の一人である戸部千春先生と交流させていただいています。和人ですがアイヌの彫刻文様に対して、ものすごい知識を持たれている方です。
小さな文様の断片の一つ一つに、「こういう意味がある」等、記録されているわけです。
流石にそこまで作中では描ききれなかったので、参考文献リストには収録されていませんが、本当に貴重な研究成果を残していただいたと思います。博物館にマキリを見に行くのが楽しくなります。
©野田サトル/集英社
#2へつづく
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#4 「連載が始まる頃には貯金も底をついて…」