お笑い米軍基地の誕生
翌々日、ぽってかすーは、新宿のライブに出演することになっていた。小波津はそこでかけるネタを急遽、変更することにした。相方には「新聞を持って俺がバーッとしゃべるから、それに適当に突っ込んで」とだけ伝えた。
当日、小波津は、相棒の制止を振り切り、舞台を降りていって客の目の前に琉球新報を突きつけた。
「読め! アテネで聖火が燃え上がってるとき、沖縄ではヘリコプターが燃え上がってたばーよ!」
小波津の形相と、異様なテンションに、客席は爆笑の渦に包まれた。小波津が振り返る。
「ウケるだろうなという計算はあった。ローカル紙を持って、沖縄の言葉で、ただ、本気で怒る。本土の人からしたら、わけわからない。そのギャップが笑いになる。
東京に来たばっかりの頃は標準語じゃないといけないのかなと思っていた。でも、僕らが伝えなければいけないのは言葉じゃなくて感情。うちなーぐち(沖縄弁)だろうが、英語だろうが、熱量を吐き出せば感情は伝わる。あの時、そのことが、はっきりわかった」
沖縄の新聞を片手に東京の人を説教する。この日を境に、それがぽってかすーの芸風となっていく。
「沖縄では雪は降らないけど、パラシュートが降ってくんだぞ!」
「米軍基地を全部、皇居に移設してやるからな!」
だが、沖縄に基地があることすら知らない客も多く、たびたび空回りした。
「沖縄の米軍基地はフェンスに囲まれていて、自由に出入りできないことすら通じないと知った時はショックでしたね……。沖縄だったら、子どもですら知っている話なのに」
次第に沖縄で存分に基地を題材にしたコントをやりたいという願望が頭をもたげてくる。小波津は、もともと東京は修行の場と割り切っていて、いずれは沖縄に戻るつもりでいたという。
タイトルはすぐに決まった。
基地を笑え! お笑い米軍基地――。
小波津は古巣のFEC社長、山城智二にアイディアを語った。しかし山城は最初、躊躇したという。
「タイトルですよね……。米軍基地を、こんな風に表現しちゃっていいのかな、と」
県民にとって米軍基地問題はタブー中のタブーだった。山城が続ける。
「僕、今年で51(歳)なんですけど、僕らの世代の20代、30代のころは同級生で飲み会をしたとしても基地問題とか政治の話はしないようにしていた。本音は絶対、もらさないというか。言っちゃうと賛成の人もいれば反対の人もいるので、ケンカになっちゃう。それをしたくないから意図的に逸らしていた」
そのデリケートなテーマを「笑え!」とは。戦争体験者は、決して許さないだろう。そんな怖れがあった。
取材・文/中村計
後編 「戦争体験者の前に人殺しの道具を置かないで欲しい」沖縄ローカル芸人の魂の叫び に続く
本土復帰50 周年記念
お笑い米軍基地 なはーと編
制作総指揮・企画・脚本・演出 小波津 正光(まーちゃん)
2022年 8月13 日(土) 17:00 開場 18:00 開演
【会場 】 那覇 文化芸術劇場 なはーと 大劇場
【入場券】前売 2,000 円 当日 3,000 円
【取り扱い】イープラス、 ファミリーマート各店( Famiポート)
デパートリウボウ4階チケットカウンター
【主催】 お笑い米軍基地実行委員会 【共催】 那覇市
【お問い合わせ】
お笑い米軍基地実行委員会
TEL 098-869-9505 (平日 10:00 19:00)
WEB https://www.kohatsumasamitsu.com/