脱力力の肝は、視点転換。
チャップリンの名言に「人生はクローズアップでは悲劇だが、ロングショットでは喜劇だ」というのがあります。ちょっと引いて自分と自分の状況を俯瞰してみる。この視点転換が脱力力の肝だと思います。僕が意識的によくやるのは、時空間を飛ばすという方法です。
ドラマ『全裸監督』で再び注目を集めた村西とおる氏は「死んでしまいたいときには下を見ろ、俺がいる」と言っています。ナイスです。村西監督の名著『ナイスですね』(JICC出版局)は失敗したときに読むのに最適です。もちろん村西監督よりも、もっと苦境に生きている人がいます。「これはツライなあ」というとき、「でも、今まさに空爆を受けている人がいる」とか、「飢餓に苦しんでいる人がいる」と考えると、自分の状況がひどくラクなものに思えます。あるいは時間を飛ばして、「これが戦国時代だったらどうなっただろう」と考える。切腹するまでには至っていないわけで、大体のことは平気になる。新渡戸の言う「気分の問題」にだんだん近づいてきます。
もう一つ大事だと思っているのは、自分の本能に逆らわないということです。大学院生のときに、とにかく研究や勉強が一切イヤになったことがあります。もともと研究に対する志も低いうえに、ひたすら勉強しているだけで「仕事」になっていないので、やる気がなくなると歯止めがかからない。
そのとき僕は、なぜかスキでもないパチンコに行っていました。パチンコをしている間は何も考えないで済みます。これはイイということで、朝一〇時の開店と同時にパチンコ店に入り、閉店の二二時まで一二時間パチンコ台に向かいました。帰りはもはや廃人です。それでもまた翌日、バイクに乗ってパチンコ店に行き、開店と同時に台に向かう。これを毎日繰り返したら、三週間で飽きました。すぐに「よし、勉強するぞ」とはなりませんでしたが、気がつくと元に戻っていました。
人間壁にぶつかったときには、とにかく徹底的に堕ちてみるのも一つの手です。行くところまで行く。「廃人上等!」というところまで一度行ってみると、自然とまた戻ってくる。息をすっかり吐かないと、大きく吸えないということなのかもしれません。
ビジネスや経営において、自信は大切です。ただし、つけ上がるとか油断につながることも多い。自信は裏切ることがしばしばです。しかし、失敗は裏切りません。ここにも失敗に対してノーガードの構えを取る絶対悲観主義の効用があります。