脱力力

大失敗の経験をきっかけに、最近流行りのレジリエンス関連の本をいくつか読んでみたのですが、たいしてグッとくるものはありませんでした。もっと骨太なものを読みたいと思っていたところ、新渡戸稲造『逆境を越えてゆく者へ』(実業之日本社)に出会いました。

「自分はこんなに努力しているのに、社会はなぜ自分を虐待するのか、なぜ自分を受け入れないのか、という言葉はよく耳にする。だが社会は決して虐待しない。自分が虐待されるに値する人間なのである」──新渡戸稲造の言葉は厳しく聞こえます。しかし、全体を通して読み取れるのは「すべては気のせい」という寛やかなメッセージです。
 
逆境と思うから逆境であり、意識の持ち方でいくらでもそれは善用できる。自分が順境にあるというのもまた気のせい。つい油断すると、すぐに状況は逆境に転じる。ようするに、順境も逆境も実在しない。逆境だと思ったときには、爪先立ちして前を見ろ。肩の力を抜き一歩退いてこの先どうなるのかを考えれば、光も希望もある。人生は長い──新渡戸稲造の結論は「まあ、一〇年待て」。さすがにスケールが大きい。一〇日ほどで立ち直った僕の「大失敗」など失敗のうちに入りません。
 
回復力は自然に備わっている人間の本性です。もともと持っているものを引き出すだけ。筋力のようにトレーニングで強化する類のものではありません。「回復力をつけよう」とか「強い人間になろう」と思うとますます回復できない。回復力を引き出すカギは、脱力です。脱力力こそ回復力の正体です。