新しいコミュニケーションへの
ヒントが詰まった一冊
髙橋安幸という書き手は、とにかく「会いに行く」人である。
代表作『伝説のプロ野球選手に会いに行く』(白夜書房)に至っては、その情熱が題名にまで込められているし、傑作『根本陸夫伝 プロ野球のすべてを知っていた男』(集英社文庫)においても、労をいとわぬ機動力が原稿に深みと濃さを生み出し、根本とはいったいどんな男だったのか、読者は髙橋と一緒に答えを探す旅に出たような感覚を覚えるだろう。
興味を抱いた対象に対しては、居ても立ってもいられない。そんな髙橋が今回、強い筆致で描くテーマが「プロ野球のコーチ」だ。
髙橋は序章で記す。「監督と選手には成績と数字が付き物だが、コーチには成績も数字もない」「『名コーチ』は何が条件になるのか、わかりにくい」「わかりにくいから、実際にコーチに取材してプロセスを明らかにしたいと考えていた」――。
登場するコーチ6人はプロ野球の表も裏も知り尽くした強者だ。髙橋の綿密な準備と球界への豊富な知識、そして「わかりにくさ」の解明へと立ち向かう熱意が、取材対象へと伝わったのだろう。心の奥にある本音を引き出すことに成功し、指導への苦悩と喜びが独特の文体で描かれていく。
読み終えて思うのは、人が人を育てることの難しさであり、妙味だ。故・野村克也氏は「縁に始まり、縁に終わる」という名言を残した。コーチとの出会いで飛躍を遂げた選手もいれば、相性の悪さを嘆き、一軍で活躍できぬまま球界を去った若者も多数いる。組織に属する人間であれば、6人の言葉は「我がこと」として切実さを帯びる。中間管理職にとっては、新しいコミュニケーションへのヒントが詰まった一冊となるだろう。
単純明快な「オレが育てた」という武勇伝とは正反対のコーチ論。時代の空気を吸い込み、「わかりにくさ」へと果敢に挑んだ意欲作だ。人も野球も、やっぱり面白い。