岐阜のカツ丼はミクスチャー食文化から生まれた!?
粘度の高い茶色のソースがかかったてりかつ丼は一見デミグラス風のソースかと思いきや、親しみやすいケチャップベースの甘酸っぱいソースで、まさしく地域のファミリーに愛されてきたであろう味わいそのもの。カツの下に敷かれたキャベツの千切りからは「野菜も食べなさいよ」という母の声が聞こえる気がする。脇の汁麺から聞こえてくるのは「がっつり食べたい!」という父の声だろうか。
"ファミレス"だから、すべての客にやさしい。全メニューに+370円でミニラーメンを追加できる(単品は420円)。しかもラーメンといっても、スープは誰もがノスタルジーを覚える魚介の節から取られた、出汁風味うどん……じゃなくて、ラーメンだ。透き通った出汁に具はわかめとかまぼこ、思わずうどんと間違えてしまうほどのうどん出汁感……。ともあれ、名古屋から東方にある岐阜のカツ丼の名店には麺がつきものなのだ。
それにしても、東濃という岐阜の東側に、なぜこれほど多様なカツ丼が存在感を示しているのだろうか。
実は県境の中津川を抜け、木曽山脈を越えたところにある長野県の駒ヶ根市や伊那市もソースカツ丼で知られている。長野側から見ると、中山道から岐阜の中津川に抜けるルートは大きく2つある。
まずは中山道。中央アルプスとしても知られる木曽山脈を先に越えて山の西側を南下するルートだ。
そしてもうひとつは三州街道だ。長野の塩尻で中山道から南へ分岐して、木曽山脈の東側を南下し、伊那や駒ヶ根を通るルートだ。こちらは飯田を抜けたところから中津川の中山道へと合流するルートがある。
そういえば土岐市の「ちちや」のカツの下には、伊那・駒ヶ根と同様にキャベツが敷かれていた。もしかすると、岐阜の東濃エリアの変化球カツ丼は駒ヶ根のソースカツ丼との文化交流の結果、様々な形に分派していった可能性もある。だが、だが、それだけでは解決しない謎が、中山道の先にある西濃エリアのカツ丼にはある。
#2 これだけは食べとかないかん! 岐阜で出会える独創的カツ丼5店
文・撮影/松浦達也