人が死ぬということ

人は誰もが死にます。

だんだん元気がなくなり、だんだん食事がとれなくなり、だんだん歩けなくなり、寝ている時間が長くなります。そのうち水も飲まなくなり、トイレにも行かなくなります。そして、深い眠りに入って意識がなくなると、ついには呼吸が弱くなり、とうとう呼吸が止まります。それと同時に、心臓が止まる。

これが、人が死ぬということです。

その人の病状や残された体力によって、この経過が1日でくる人もいれば、数年かけて訪れる人もいます。基本的には、そこに悶え苦しむような体の苦痛はありません。

以前の私もそうでしたが、病院の医師はこのことを知りません。病院には治療の末に亡くなる患者さんしかいないからです。病院では死なないように懸命に治療した結果、患者さんは必ず亡くなっていきます。だから、治療するほうも治療されるほうも、精神的にもつらい。

穏やかな死とは、飛行機がゆっくりとソフトランディングしていくようなイメージです。経年劣化によってエンジンや翼はボロボロになってしまったけれど(歳をとって体中病気だらけだけど)、無理して燃料を詰め込まず(無理して食事や水分をとらず)、機体が骨組みだけになっても(ガリガリに痩せても)、死という運命に抗わずに、ゆったりと自分のペースで飛び続け、いつのまにか着陸している。そんなイメージです。

低空飛行となってゆっくりと着陸すれば、死は決してつらくありません。そして、このような穏やかな死を迎える場として、自宅ほどふさわしい場所はありません。

今の日本において、病院で穏やかに死ぬことは簡単ではないからです。

家で死のう! ――緩和ケア医による「死に方」の教科書
萬田緑平
タバコも酒もOK!? 終末期は自宅療養のほうが幸せに生きられる理由_1
2022年6月22日
1540円(税込)
単行本 240ページ
ISBN:978-4—86680-924-3
眠るように
穏やかに死ぬための本
――なぜ病院で死ぬことは苦しいのか?

なぜ、病院で死ぬのは苦しいのか?
死そのものは本来、苦しいものではありません。しかし、病院で治療を続けると、体力の限界まで「生きさせられる」から苦しいのです。
――私はこの本で、人生の最終章には、「病院で治療する」という選択肢以外にも、治療をやめて「家で生き抜く」(それはつまり「家で死ぬ」)という選択肢があることを知ってほしいと思います。

病院での治療をやめて、自宅で生きることを選んだ患者さんの最期は、病院で見られる絶望的な「死」とは異なります。私は病院医療と在宅緩和ケアの両方を見てきた立場として、こう断言します。
「終末期の患者さんは、病院での延命治療をやめて、自宅に戻ってすごしたほうが人間らしく生きられる」
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後編『なぜ、病院で死ぬのは苦しいのか? 緩和ケア医が明かす「死の現場」』はこちら