ソ連がウクライナを蹂躙した歴史を描く『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』
ロシアとウクライナの関係が、単にソ連崩壊後にウクライナ共和国が独立して西側にすり寄っていたのを、ロシアが許そうとしないという図式でとらえてしまうと、物事の本質は見えてこない。そのことを教えてくれるのがアニエスカ・ホランド監督の『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』(2019)だ。
主人公は、世界恐慌下でソ連だけが繁栄しているという報道に疑問を感じた英国人ジャーナリスト。モスクワに取材に行くが、厳しいメディア統制で思うように情報を得られず、ウクライナの穀物地帯に潜入して驚愕の事実に行き当たる、というストーリー。
その驚くべき事実というのが、ウクライナで収穫された穀物が、ソ連当局に強制的に搾取され、ウクライナでは多くの餓死者が出ているという悲惨な状況だった。
歴史的事実を基にした『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』を見れば、なぜウクライナの人々がロシアに対して拭い去る事のできない不信感を持ち続けているのか、その背景を理解することができるはずだ。
V・ヴァシャノヴィチ監督が提示したロシアとウクライナ間の“10年戦争”
さて、地理的・歴史的背景を知った上で、現在進行形のロシアによるウクライナ侵攻をウクライナ側の視点に立ったら物事がどのように見えるのか――? それをヴィヴィッドに示してくれるのが、ウクライナ映画界の俊英ヴァレンチン・ヴァシャノヴィチ監督による2作品、すなわち『リフレクション』(2021)と『アトランティス』(2019)だ。
両作品を見て、まず気づかされたのは、ウクライナ人にとってロシアによる侵攻は2022年の2月24日に突如始まったものではないということ。2014年2月のウクライナ騒乱に端を発するクリミア自治共和国の独立と、その後のクリミア共和国のロシア連邦への自主的な併合を起点として、ずっと続いている戦いなのだ。
クリミア併合の際に、今回ほどロシアへの国際的な非難がなされなかったことももちろんあるが、正直いって当時は、ロシアがウクライナの内乱に乗じて漁夫の利を得ただけのように見えたし、ロシア側の言い分にも一理あるように思えた。
だが、併合の際のプーチン大統領の演説の中で「ロシアはウクライナの分割を望まず、これ以上の領土的野心はない」と明言していたにもかかわらず、今回は「ネオナチからウクライナ東部に住むロシア系住民を守るため」という理由で軍事侵攻を始めたわけだ。