東京・神奈川にも拡大か…河川沿いに潜む危険

今の状態を放置しておけば、やがては関東や中部、東海地方などにもクマの出没傾向は波及していく可能性が濃厚である。東京を例に取れば、現在出没をくり返している地域は八王子市や青梅市といった関東山地から埼玉県の秩父山地にかけての山沿いであるが、今後は福生市、昭島市、立川市、日野市などの多摩川沿いに現れる可能性がある。

神奈川県の相模原市などの相模川沿いや鶴見川、酒匂川沿いも危険性がある。河川沿いはクマがいつ下ってきても不思議ではない。そして河川敷に繁茂した雑木林が野生動物たちにとっては使える移動路となっていることも出没の確率を上げている。

今年、6月6日の早朝から9日の日暮れ方にかけて起きた栃木県宇都宮市におけるクマの出没事件は、都市型出没には打つ手がないことを示した典型的事例と言えるだろう。

結果的には4日間も追跡(実際には移動するクマを24時間捕捉しつづけることはできていない)し、時には見失い、市民の目撃情報やマスコミのカメラクルーによって再発見されるということをくり返しながら、9日の午後に緊急銃猟が適応され麻酔銃で捕獲、結果的に殺処分されるまで、4日間にわたって市中を自由に移動させつづけた。

この時、地方都市であり、出没個体に可能な限り刺激を与えず、ノーリアクション、「何もしない」で足取りを追うことぐらいしか対応の方法はなかったであろう。なぜなら、みだりに手出しをしてクマを刺激してしまえばヒトにかかっていく可能性もあるなかでの足取りを追う行為だった。

ただ、問題の根もそこにある。それしかほかに方法がなくなってしまうこと自体が問題なのである。手出しもできず、見守るだけ。そしてクマが移動を止め、1か所に留まってくれることをただひたすら待ちつづけるしか、方法がないという事実。

実は追い込まれているのはクマではなく、ヒトのほうであるという事実が問題なのである。都市に入り込まれてしまえば、必ずそうなる。今のところ、緊急銃猟の対象となった出没のなかでマスコミのカメラの真ん前で人が襲われるというアクシデントはかろうじて起きていない。

しかし、この手法をとりつづける限り、いつそのような事態にいたるかは時間の問題と言ってよい。

「緊急銃猟の実施状況(令和7年度)」
「緊急銃猟の実施状況(令和7年度)」
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文/田口洋美

『増補改訂版 クマ問題を考える 野生動物生息地域拡大期のリテラシー』(山と渓谷社)
田口洋美
『増補改訂版 クマ問題を考える 野生動物生息地域拡大期のリテラシー』(山と渓谷社)
2026年10月19日
1430円(税込)
288ページ
クマに囲まれて生きる現実を受け入れよ。
別次元となった新時代の処方箋

クマ問題、別次元に。
日本列島を恐怖の渦に巻き込んだ令和のクマ騒動。都会はクマたちのフロンティアとなり、すでに都市を取り囲むように生きています。
民俗学者で、人と野生動物の関係について長く研究した著者による、クマ問題の処方箋。
2017年刊行した同書を大幅に増補し改訂した一冊。


■内容
第1章 クマ問題さらなる次元
第2章 平成のシシ荒れ
第3章 生息域拡大期の現実
第4章 近世の相克「シシ荒れ」森の消長と野生動物
第5章 狩猟の公共性
第6章 クマと向き合う
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