クマの分布域は15年で1.5倍。昔はいなかった山にも「今はいる」

最近、クマ関連のニュースをよく耳にする。山の中で見たという話だけでなく、住宅街に出た、人が襲われたという報道が明らかに増えた。環境省によると、2025年度は全国でクマに襲われた人は238人にのぼり、過去最悪の数字を更新した。死亡者数も13人と過去最多だ。従来の最多記録は2023年度。襲われた人は219人、うち死亡者数は6人であり、これを大幅に上回った。

なぜここまで増えたのか。クマの問題には地域差があり、行政、猟友会、住民、登山者など立場が変われば見え方も変わる。ここでは登山者としてこの現状にどのように向き合うべきかを考えたい。

環境省の資料では、ツキノワグマの分布域は2003年から2018年の間で約1.5倍になっている。ヒグマも約1.3倍だ。分布が広がったことと個体数が増えたことは別の話だが、少なくとも昔より広い範囲でクマが出没するようになったのは事実だ。

その理由のひとつは、日本の山の姿が変わったことだ。かつて山は薪や炭、木材を採るために人里近くはハゲ山になっており、クマは里から遠い奥山に棲んでいた。ところが燃料がガスや電気に変わり、人が山に入らなくなって森が回復した。

クマにとっては、棲みやすい場所が広がったことになる。山に流れる川沿いを歩いていけば、簡単に人里までたどり着けてしまう。人間にとっては「突然クマが出た」ように見えるが、クマからすると「川沿いを歩いていたらいきなり街になった」という感覚に近い。

もうひとつは、人のいるエリアがクマにとって魅力的になっていることだ。人口が減った地域では、管理されない果樹や耕作放棄地が増える。キャンプ場やゴミ捨て場もある。クマは嗅覚が非常に鋭いので、食べ物の匂いに敏感だ。人里はクマにとって「怖い場所」ではなく「食べ物がある場所」になってしまっている。

そして、クマにとって唯一と言っていい天敵である猟師が高齢化し、減少もしている。法律面では、「数を管理する対象」(指定管理鳥獣)にクマ類が加わったのは2024年、自治体の判断で駆除に動ける緊急銃猟制度が始まったのは2025年と、対応はごく最近だ。捕獲には危険を伴う。政府や自治体が捕獲を命じてもすぐには対応できないし、捕獲して被害が減るかは現時点では不明だ。

登山者としては、細かい背景を追いかける必要はない。とはいえ、昔はクマがいなかった山にも、今はいる可能性がある。この点は頭に入れておいてほしい。

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「冬ならクマは眠っているから安全」という前提が崩れつつある

日本にいるクマは2種類。本州と四国にいるツキノワグマと、北海道にいるヒグマだ。ツキノワグマは体長120~150cm、体重はオスで40~120kgほど。四つん這いでの計測であり、立ち上がるとほぼ人間と同じくらいになる。

ヒグマはさらに大きく、体長2m超、体重は200~400kg。ヒグマの危険性が注目されがちだが、ツキノワグマでも死亡や深刻なケガを負う事例は多く、どちらも油断はできない。ツキノワグマの生息域には偏りがあり、西日本には比較的少ない。四国の個体数はかなり少なく、九州では絶滅したとされている。裏を返せば、それ以外の本州はどこにいてもおかしくないということだ。

クマは11月ごろから3~4月まで冬眠する。冬眠明けのクマは痩せ細って空腹であり、食べ物を探し回る(ただし冬眠中に出産したメスや子連れのメスは冬眠明けが遅く、5月ごろまで穴に残ることもある)。

春はまだ食料が少ない。植物の新芽や若葉、前年の秋に落ちたどんぐり、動物の死骸、そして細いたけのこのようなネマガリダケを食べる。これはおいしいので、人間と取り合いになる。実際、ネマガリダケ採りの最中にクマと遭遇する事故は、毎年のように起きている。

そのうえ6月から8月ごろはクマの繁殖期で、若いオスが動き回って人の生活圏に出やすくなる。9月から11月ごろは、冬眠に備えて大量にエサを食べる。つまり、クマへの注意は春から晩秋までずっと必要なのだ。

さらに近年は、どんぐり不作や暖冬の影響で冬眠ができず、エサを求めて里に下りてくるクマがいるという報道も相次いでいる。2025年から2026年にかけての冬は、雪の積もった地域でもクマの目撃が続き、春先まで出没注意報を出す自治体もあった。「冬になればクマは眠るから山は安全」という前提がなくなりつつある。

活発に活動するのは早朝と夕方。ただし人の少ないエリアでは日中も普通に動くし、食料が足りなければ時間に関係なく動き回る。登山を始める朝と下山する夕方はクマの活動ピークに重なり、登山口周辺で遭遇する可能性は上がる。移動距離は長く、一日で5~10km動くこともある。「昨日は見かけなかった」は「今日の安全」を意味しない。