車いすの高さをめぐる戦略的試行錯誤

スペインでの経験が生かされたことは、他にもあった。車いすだ。

前述したとおり、僕はスピードや俊敏性に加えて、高さを自分のストロングポイントにしようと、リオパラリンピック後から少しずつ車いすの高さを上げた。わずか1センチ違うだけでバランスが崩れプレーに影響すると言われているが、僕がリオから東京までの5年間で上げた高さは約20センチ。高さを手に入れた分だけのマイナス要素を、僕は体幹トレーニングなどでカバーしてきたのだ。

実は東京パラリンピック後も、僕は車いすのセッティングを上げ続けていた。ただし、それは単に「高くさえすればいい」と考えていたわけではなく、高さを出すことによるメリットとデメリットを分析したうえで、どの高さが自分にとって最適かを導き出したいと考えていたのだ。なので、高さを出したあと、少しずつ下げて最適を探るのが僕のプランだった。

東京パラリンピックに向け、高さに挑戦していた(写真:長田洋平/アフロスポーツ)
東京パラリンピックに向け、高さに挑戦していた(写真:長田洋平/アフロスポーツ)
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そして、今回のスペインでの経験が、大きな判断材料になった。

競技用車いすは、床からクッションを含む座面のシートの最上部までの高さに規定がある。クラスが2・5の僕の場合は63センチが上限だ。スペイン渡航時は、その最大値にまで上げた車いすに乗っていた。パリパラリンピックの出場権を逃したAOC後にセッティングした車いすだった。

ところが、スペインの体育館の床は非常に滑りやすく、僕は持ち前のスピードとアジリティを発揮できないことがたびたびあった。ディフェンスでいつもなら止められる相手に抜かれてしまうのだ。

僕はアジリティの重要性を再認識した。

結局どれだけ車いすのセッティングを高くしたところで、世界には自分よりも高さがある選手はいくらでもいる。高さを出したことで、自信を持っているスピードが落ち、しかも高さでもやられてしまうくらいなら、もう少しスピードと高さとの兼ね合いを考えた方がいいだろうという結論に至ったのだ。

日本では自分が一番高かったため、なかなかその判断に至らなかった。このこと一つとっても、スペインで視野を広げられてよかったと思う。

実際にクッションを削るなどして3、4センチほど下げると、試合でも思うようなリアクションが取れるようになった。そこでスペイン滞在中に、日本のメカニックに連絡を取り、5センチ低くセッティングした新しい車いすをオーダーしていたのだ。帰国後の練習会から乗り始めたのが、その車いすだった。高さだけでなく、車輪のキャンバー角(タイヤの角度)も広げることで、操作性が増し、より僕の持ち味を発揮できるようにしたのだ。