ドクター・ドレーとの契約
デトロイトの暮らしから抜け出すことを夢見ながら苛立ちが募っていた1998年、前年末に自主制作でリリースした「The Slim Shady EP」がローカル・ヒットすると、西海岸ヒップホップの名プロデューサー、ドクター・ドレーに見い出され、彼のレーベルと契約。
1999年のメジャーデビュー作『The Slim Shady LP』は、全米2位を記録して700万枚以上を売り上げ、過激なリリックや数々のスキャンダルも話題になって一躍、時の人となる。遂にはグラミー賞最優秀ラップ・アルバムを受賞。エミネムが27歳の時のことだった。
1920年代に伝説のブルーズマンのロバート・ジョンソンが南部のクロスロードで悪魔に魂を売り渡したように、1990年代末にエミネムは北部の8マイルでスリム・シェイディに魂を売り渡したのだ。
世紀末といえば、ブリトニー・スピアーズやバックストリート・ボーイズらのティーンアイドルが台頭していた時代。リアルな彼の存在は眩しいくらい輝いていた。
エミネムはその後「ゼロ年代最大のカリスマ」「21世紀最初のスーパースター」としてメガヒットを連発していく。こうして悪魔の手を借りて一度自分自身を殺した彼は、頂点へのし上がっていった。
時が流れて、2018年8月にリリースされた『KAMIKAZE』は、様々な物議を醸した。ビースティ・ボーイズのアルバム『Licensed to Ill』のジャケットをモチーフにしたジャケットが賛否両論を呼んだのはまだ序の口。
ドナルド・トランプから人気若手ラッパー、さらに前作『Revival』に低い評価を下したメディア関係者まで、あらゆる方面に対してディスしていく、まさに炎上上等といったような内容の問題作となった。
名実ともにヒップホップ・シーンのスーパースターであり続けるエミネム。しかし、『KAMIKAZE』の収録曲「Fall」のMVのラストシーンでは、悪魔に魂を乗っ取られて“Rap Devil”に変化し、自らのCD『Revival』を彼自身の足で踏み潰す場面で締めくくられる。そして2026年現在の最新作のタイトルは、『The Death of Slim Shady』。
誰の心の中にも“8マイル”は存在する。越える越えないは自分次第だ。
文/中野充浩、宮内建
参考・引用/『8 Mile』DVD特典映像、パンフレット














