出会いは『太陽・惑星』から
──お二人の出会いから教えてください。
川村 僕は今「Whatever」というクリエイティブスタジオを立ち上げて活動しているのですが、その共同創業者であり経営パートナーの富永(勇亮)が、以前、テック系のイベントで上田さんとご一緒させていただいたんです。
上田 年の2月に名古屋で開催された「TechGALA(テックガラ)」でしたね。
川村 それですそれです。イベントが終わった後、富永から「この前、上田さんっていう、ものすごく頭のいい、面白い小説家に会ったんだよ」と報告されまして。僕はそれを聞いて「えっ、上田さんって、あの『太陽・惑星』を書かれた、作家の上田岳弘さん!?」と驚いて。「そうそう」と彼が言うので、「大先生だよ! 俺がそのイベントに出たかった!」と。上田さんのデビュー作である『太陽・惑星』の頃から、本当に勝手ながら一方的に作品を読ませていただいていて、大ファンだったんです。
それで、「ぜひ僕も一度お会いしたい」と富永経由で上田さんにお伝えして、その後、実際にお会いすることができました。
──実際にお会いして、すぐに意気投合されたんですか。
川村 すごく盛り上がりました。上田さんって、本当に頭の回転がキレキレじゃないですか。こちらが何を話してもすごい精度で返してくださるので話題が尽きず、とても刺激的でした。
上田 あっという間に時間が過ぎた、楽しい会でした。中華とフレンチを行ったり来たりするお店でしたね。
川村 もともとは「小説家」というイメージを持ってお会いしたのですが、実際にお話ししてみると、既存の小説家像に収まらない活動を沢山されている。ITスタートアップ企業の役員をやられていたり、テクノロジーやビジネスの構造に精通されていたり。「一体この人は何者なんだろう?」という興味が膨れ上がり続けて、いまに至るという感じです。
上田 いや、それは僕にとってもまったく同じ印象ですよ。「川村真司という人間は、一体何者なんだ」という。
話は僕のデビュー作の『太陽・惑星』の単行本が出た時に遡りますが、初めて本を出した著者というのは、どうしても世の中の反応が気になるものなんです。「誰か読んでくれた人はいるかな」と、当時のTwitter(現X)で検索したら、川村さんの投稿が出てきました。どういう活動をされている方なのか気になってプロフィールを拝見しました。
すると、数々の素晴らしいミュージックビデオを手がけられていたり、『ピタゴラスイッチ』のような、子供から大人まで馴染みのあるテレビ番組のコンテンツ制作に深く関わっているクリエイターだとわかった。
すごい方なんだと思いつつ、そんな方に自分のデビュー作を「面白い」と書いていただけたことが、本当に嬉しかった。それで川村さんの名前を記憶に留めていたんです。
川村 そうだったんですね。そんなふうに思っていただけていたなんて光栄です。
上田 Whateverの富永さんとテックイベントでご一緒することになった時も、登壇前に一応、どんな方か情報を調べるじゃないですか。Whateverを検索したら、そこに川村さんの名前があった。「これはご縁だな」と思いました。
川村 そうだったんですね。『太陽・惑星』が出たのはいつでしたっけ? 10年くらい前ですか?
上田 2014年だから12年前ですね。
川村 初めてお会いできたのが去年だったから、11年越しの出逢いでしたね。
──縁といえば、お二人とも1979年生まれですよね。
川村 そうなんです。それもこの前の上田さんとの食事会で盛り上がったトピックでした。1979年生まれって、尖った感性のやばい奴らがたくさんいるぞっていう話になって(笑)。「79年生まれの会」を開いて、集まらないと、なんていう話をしました。
上田 ただ、この世代を一堂に集めると、個性が強すぎてケンカになりそうな気もするんですよね(笑)。
川村 それは大いにあり得ますね(笑)。でも、たまたまこうして同い年で、お互いの作品をリスペクトし合えていることには、やはり特別なご縁を感じます。
上田 僕は一時期、andropというバンドがものすごくヘビーローテーションしている時期がありまして。
川村 僕がMVをいくつも作らせていただいたバンドですね!
上田 「World.Words.Lights.」とか、川村さんの名前を意識せずに観ていました。
川村 けっこう前の作品ですが、嬉しいです。僕が前の会社(PARTY)をやっていた頃なので、もう14、5年は経っているんじゃないでしょうか。
上田 もうそれくらい経つんですね。とにかくセンスが良くて、いつかこういう映像を作っている人と話せたらな、と思っていました。他にも安室奈美恵さんの「Golden Touch」とかおすすめのMVがたくさんあります。
川村 光栄です。お互いに直接会う前から、遠いところで作品を通じて思い合っていたわけですね。
上田 ただ、僕としては、そういういつかお話ししたい人や会いたい人に対して、すぐにアプローチするのではなく、「いつか自然に出会う時が来るのを待つべきなんだろうな」と思っていたところもあります。
川村 あ、それ、よく分かります。物事が熟して、果実が自然と手のひらの上に落ちてくるようなタイミングで出会う方が、意味があるという感じでしょうか。その方が運命を感じるというか。
上田 そうなんです。その方が、いざ出会った瞬間に通じ合えるような気がして。山の何合目かわからないけれど、これまで別のルートで登って来て、そっちはどうだった、こっちはどうだった、みたいな話ができた方が楽しい。ただ、いつか会いたいなと思っていた方が他界された経験があって。その方が僕の作品を読んでくれているってのは人から教えてもらっていたんですが、出会いを待つことと会いに行くことのバランスって、本当に難しいなと感じます。
川村 そうですね……。それも含めて運命の一部なのかもしれない。僕自身はどちらかというと、会いたいと思う人がいたら、自分から会いに行ってしまうタイプなんです。特に、お年を召されている巨匠や、今すごく勢いのあるアーティストなんかは、「この瞬間に話を聞いておかないと」という、ある種の危機感を感じちゃったりするんですよね。
その人自身がまとっているオーラや、仕事に対する考え方や振るまいみたいなものって、旬な時に生で対峙しないと得られないインスピレーションがあるじゃないですか。
上田 その通りですね。
川村 それを知りたくて、こちらから会いに行くんですが、でもやっぱり、上田さんのおっしゃることも痛いほど分かります。お互いがそれぞれの領域で泳ぎ続けていて、「あれ、こんなところで交わるんだ」という瞬間のドラマチックな感動。
上田さんの小説にもそういうところがありますよね。今回の『ノー・ファンタジー』もそうですけど、登場人物たちの巡り合わせがドラマの重要な要素になっている。ワクワクしました。物語だけでなく、リアルな人生でもそういう瞬間は胸が高鳴りますよね。
上田 同世代なら、お互いに生きていればいずれ出会うはず、みたいな謎の信頼感がありますね。逆に年かさの方に対しては、川村さんのように、こちらから積極的に動いて行った方がいいのかもしれません。
川村 出会えなかった時は、「そういう宿命だったんだ」と自分を納得させ、出会えたら、「せっかくのこの繋がりを生かさないと」という、前向きなプレッシャーや心地よい緊張感が生まれるということかもしれません。














